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しとやかな獣のLATESHOWのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
3.8
昭和の団地の一室をカメラワーク駆使してブラックコメディの舞台に仕立て上げる見事な作り。
人間の業を覗き穴から見つめるような、ありとあらゆるアングルが登場し
観ていて全く退屈しない密室劇。

元祖「全員悪人」映画。
他者の金を騙し取って生きる知能犯詐欺一家の
いけしゃあしゃあと贅沢し、のらりくらりと追及をかわすしたたかさ。
伊藤雄之助のすっとぼけた曲者っぷりと
そこにのっかる一家のいやらしさ。
とにかく下手に出続けてさりげなく脅迫する手口に引きつった笑いが止まらなくなる!
こんな心のこもらない申し訳ありませ〜んをシレッと言い放ち丸め込んでしまう伊藤雄之助の悪魔的怪演がたまらない!
小沢昭一や山茶花究、ミヤコ蝶々らの胡散臭さも敵わぬ腹黒さ。

またあの貧乏暮らしに戻りたいのか!と
伊藤雄之助が怒鳴れば
コメディの緩さにピリッと緊張が走り、時間は停止して登場人物達にジットリ汗がにじむ。
生きることにそれなりに必死な悪人達の、さらに上をいく若尾文子の澄まし顔。


「お前のためお前のためって、あなた御自分のためにおやりにならなかったんですか? 奥さんやお子さんを養うために、よその女の方と浮気をするために、たまには会計の女事務員をホテルに連れ込むために、それはみんな御自分のためじゃなかったんですか?」


内心の野望を語りながら団地の白い階段を昇る若尾文子には誰も太刀打ちできない。
欲望のバイタリティ勝負だ。
だから小市民は敗北し、身を投げても無表情に見降ろされ
見なかったことにされてしまう。
黒い笑いが止まらないまま、人を踏み台にして生きる恐ろしさで映画は終わる。

夕焼けにTVの音楽で踊るシーンの能楽、只ならぬグルーヴ感!
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