Jeffrey

反撥のJeffreyのレビュー・感想・評価

反撥(1964年製作の映画)
3.5
「反撥」

冒頭、女の瞳のイメージ。ここはロンドン。姉と暮らす女、薄暗い部屋。バスタブに浮かぶ死体、それは羊水の中の胎児を観るかの様。無数の不気味な手、亀裂の入る壁、兎の肉、消音の叫び、休暇、精神崩壊。今、生と死、出産と殺人、虚構と現実が写し出される…本作はロマン・ポランスキーが、1965年にベルリン国際映画祭で銀熊賞(因みにこの年はアニエス・ヴァルダの"幸福"も受賞している)を受賞したサイコホラー作品で、彼の初期作品の中でも好きな映画である。この度レストア版のBDを久々に鑑賞したが傑作だ。主演の若き日のカトリーヌ・ドヌーヴが美しい。やはりこの映画を見るとポランスキーの再婚相手のシャロン・テートの死のイメージを連想してしまうのは私だけじゃないはずだ。流血のイメージが強く、彼の作品には多くの血塗られた描写があるように、この作品もモノクロ映像だが、真っ赤な血が自然と見えてくるような錯覚に陥るほど生々しいのだ。


さて、物語はロンドンで姉と暮らすキャロルは、姉が妻子持ちの男を毎晩のように連れ込んでいることに強い嫌悪感を抱いていた。毎晩聞こえてくる姉の喘ぎ声に、彼女は男性に恐怖を募らせていく。ある日、姉とその恋人が休暇で旅行に出発し、つかの間の一人暮らしを始めたキャロルは少しずつ精神を崩壊させていく…と簡単に説明するとこんな感じで、「水の中のナイフ」に続く長編第2作目にしてこれまた傑作であり、ポランスキーの初の英語作品である。主演はフランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴ。次第に狂気にかられていく女性の心理をおぞましい映像で描き出した傑作である。やはりこの作品の冒頭のカトリーヌ・ドヌーブの目元のクローズアップは非常にインパクトがある。すでにその場面を見た時点でサイコロジカルホラーの秀作と予感してしまうほどである。


いゃ〜、まずドヌーヴが可愛すぎる。そんで冒頭の瞳のクローズアップからヒッチコックやソール・バスの作品を彷仏とさせるかのようなクレジットは素晴らしいの一言。そしてあのマダム(年老いたおばさんたち)がスキンパックしてる醜いビジュアルのインパクトは凄い圧がある。それからドヌーヴが部屋にいる時に聞こえてくる時計の秒針の音がなんとも耳心地が悪い。それから部屋の電気をつけようとした瞬間に壁にヒビ入る演出や、鏡のついたクローゼットを閉めた瞬間に鏡に映る得体の知れない影の演出とか最高である。その一瞬の出来事が良い。消してどういったものが映っているのかなど反応できないレベルのスピードが良い。壁から腕が粘土のように出てきたり、カメラが徐々に上昇して天井に近づく視覚的効果を演出したり、音楽の場面ごとに音調を変えていて本当に画期的な演出である。

今思えばこの後に作った「袋小路」を含め、「吸血鬼」と3本続けてイギリスで映画を制作している。ポランスキーは仕事が欲しくてこの作品を作ったとインタビューに答えている。仕事が欲しいと言って本作のようなサイコロジカルな作品を撮影したのもなかなか面白い。それにしても一貫して密室空間で主人公が憑依されたかのごとく、暴力性に目覚めたかのごとくサスペンスフルに物語が展開していくのはポランスキーの代名詞と言えるだろう。しかもその多くは大体女性が暴力にさらされることが多く、とりわけホラーと言うジャンルに面白い作品が多岐にわたってあるのも、ポランスキー自体がホラー映画が好きと言うことがあるのではないだろうか。ところでどうなのだろうか、この作品の序盤で、自分の洗面台のコップの中に見知らぬ人の歯ブラシと髭剃りが入れられているのを発見して嫌がるのだが、やはり拒絶反応起こすものなのだろうか。

そういえばあの男性を殺してしまって、水のたまった風呂の中にいれる場面はクルーゾー監督の「悪魔のような女」を彷仏とさせる。この映画面白いところ事に、本来断末魔の叫びを上げているはずの主人公の女が表情では叫んでいるようにとどまっていても音が全く出なく、消音にされているのがベルイマン映画のようにも感じて仕方がなかった。それとアパートの壁に大きな亀裂が入り込むのもクローネンバーグの作風によく似ているなと思うが、粘土でできたような大量の腕が出てくるのは日本の「学校の怪談」シリーズのどれかで教室から大量に腕が出てくる場面を思い出してしまった。それからデビット・リンチの「イレイザーヘッド」に出てくるような醜く気持ち悪くグロテスクな赤ん坊の物体のようなものがこの作品では兎の肉として現れるのだが、主人公の女がそれを冷蔵庫から取り出したり今居間の椅子に放置したり、そういったのを繰り返すうちに腐敗して腐っていくのだが、それを描写しているのがなんとも不気味で気持ち悪い。室内の空間もスタンリーキュー・ブリックの作風っぽく、またミクロに描いている。あのクライマックスのアパートを映し出し、写真をクローズアップして幕引きになるのはなんとも余韻が残る。
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