垂直落下式サミング

JAWS/ジョーズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

JAWS/ジョーズ(1975年製作の映画)
5.0
サメ映画の金字塔。ひさしぶりに見ると、やはり映画の歴史を変えるほどの名作っぷりがよく分かる。
だが世界的に大ヒットしなければ、しくじり映画になっていた可能性もある危うい作品でもあり、スピルバーグがそのフィルモグラフィーの中で珍しく撮影期間をオーバーし製作予算までも大幅に超過させてしまった作品だ。
CGなどはない時代の作品であるため、当然サメは作り物のハリボテで、巨大な生物を模したロボットであり、これを水の中に入れて動かして撮影している。
当時、本格的な動物パニック映画は他になかったため、製作陣はサメロボットの扱いに慣れておらず、水中にいれたときの水の抵抗や重さを考えずにこれを作ってしまった。そのため、撮っている最中に故障し、思うように動かなくなってしまい、撮影が長期間止まってしまったのである。
スピルバーグは、このとき二度とロボットは濡らさないと誓ったそうだが、『ジュラシックパーク』でティラノサウルスの登場シーンに臨場感を出すために雨を降らせたことでティラノサウルスのロボットが故障してしまい、また同じ過ちをおかしてしまったと嘆いている。
しかし、そんな苦辛は感じさせないほど、みるものの感情を誘導していく語りの臨場感は、毎年サマーシーズンに公開されるバカサメ映画とはくらべものにならないほどケタ外れの見事さだ。
サメの習性を本を読んで調べているときに、開かれた図鑑のサメのページをグッとアップにすることで、観客にサメの恐ろしさを植え付ける。
序盤で「サメに襲われた人は足を食われる」という、身体の欠損描写をさんざん見せつけておくことで、水面に足が浸かっているうちは安心できないスリラーが作用して、人々が楽しんでいる海水浴場に緊迫をもたらされる。
ブロディ署長が、ついに走り出す場面の鳥肌のたちそうなドリーズーム。これによる決定的な事態の変容と、情けない男の決意が示される。スピルバーグの演出力!
映画の教科書のような映画だ。もしも、自分が同じような映画を撮ることになったら、このような演出ができるか、このような撮り方ができるか、このような感動をあたえられるか、そんなことを考えながらみると、俺ごときが映画なんぞに手を出さなくて正解だったと、凡庸な人生の選択を最大限肯定させてくれる。