樽の外のアンティステネス

パルプ・フィクションの樽の外のアンティステネスのレビュー・感想・評価

パルプ・フィクション(1994年製作の映画)
5.0
自宅鑑賞。
何度も観たくなる映画というのはあるが、それが「視点を変えて鑑賞してみる」訳でもなければ、「ある1つのシーン(や役者)があまりに好きすぎて、それを目当てに1本丸々観返す」訳でもなく、ただただこの世界に浸りたいがために何度も鑑賞してしまう。そういう意味で個人的にこの作品は、もっとも純粋な意味で「大好きな映画」であると実感。

ある映画の魅力を挙げる時に、その手法を語るのがもっとも簡単なのだろう。殊にこの作品に関しては、分かり易く斬新な技法がいくつも使われており、それらを作品の魅力として紹介することが一般に行われているし、或いは自分自身も無意識にそのつもりで毎回作品を鑑賞していた。
でも本当はきっと、時系列がシャッフルされ、意味ありげで何の意味もない、どうしても真似したくなる台詞が続き、カッコ悪さがかっこいい登場人物の行動の数々、それらが当たり前に存在するこの映画自体の「世界」に魅了されているのだろう。たとえばあまりに絶妙なチョイスの音楽にしたって、よく考えれば日常生活に音楽なんていうものは人工的にしか存在していない訳だし、でも一方では日常に於いて「頭の中に流れている音楽」というは確かに存在する。それら全てを具現化し、1つの世界として創るのには、やはり映画という形が最も適しているのだろう。

たとえば最後のLジャクソン氏の台詞(そしてそこにフェード・インする音楽による映画全体の後味)、それらはもしかしたら今タランティーノ御大が作るなら、また別の台詞になったり、或いはもっと深い意味をもつシーンになるのかもしれない。でも、若き天才が描いた青く熱いシーンのひとつとしていつまでも心に残るし、恐らく傑作というのは、監督が年齢を経て技が熟練してきた状態で作ったものの事のみを指すのではなく、「その時にしか表現できない」ような鮮やかな表現のことを言うのだろう。傑作。