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パルプ・フィクションのつのつののレビュー・感想・評価

パルプ・フィクション(1994年製作の映画)
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めっちゃ久しぶりに見た。高校の頃に見た時も映画館だった。
題材も物語の筋も全て「パルプ」なのに、ゆったりした間とカメラワークで、俳優の演技やディテールを舐め回すかのように見せられると、パルプが、あまりにもパルプであるが故に、パルプじゃなく見えてくる。
その根底には、それぞれの対象への度が過ぎた偏愛がある。
この姿勢が、デビュー作から最新作までずっとブレてないのは凄いと思う。
音楽もセリフもショットも韻を踏みまくりで、執拗な繰り返しと微妙なズレがだんだん気持ち良くなる。
ブッチとマーセルスを襲う武器屋の連中の場面は、唯一物語がしっかりとダークサイドに足を踏み入れると思うのだが、そこは良くも悪くも漫画的(しかも非常に差別的でステレオタイプ強化的)に終わるのは、ちょっと気になる。タランティーノは、悪漢だけど魅力的な奴か、人種差別主義者などあまりに明白な悪役しか描かなくて、本当に嫌な気分になる悪役や展開は描かないのかもとか思ったり。





作品を追うとよくわかるけど、タランティーノは進化し続ける作家だ。

ダラダラ会話や膨大な映画な引用といったスタイルだけが取り沙汰されるけども、タランティーノ作品はいつだって奇抜さにとどまらない面白さや興奮、もっといえば映画的な巧みさが満ち溢れている。
鍵穴を回す動作や注射器のアップが前半と終盤で見事に180度意味が変わるし、身の安全を悟った嬉しさからブッチがトーストを焼く馬鹿馬鹿しい場面も焼き上がる瞬間が物語的に重要になる。
この巧みな技術が作品を重ねるごとにどんどん円熟していくから、タランティーノ作品を追うのは楽しい。
例えば「明らかに自分を殺しに来たやつとダラダラ会話しなければならない」緊張感の演出は
パルプフィクション→キルビル2→イングロリアスバスターズと進化している。

ということでタランティーノは単にカッコつけてるのではないと改めてわかった。
それにしても本作はかっこいい!!

癖があるという表現はあんまり好きではないけど、登場人物全員がどこまでも魅力的で(そう感じさせるのはタランティーノがさりげなくも厚みのある描写をしてるからだと思うけど)こいつらのダラダラした日常にずっと浸りたくなる。
ほとんどディズニーランド行った時の感覚に近いぐらいの満足感。

「これがパルムドールとるのか(笑)」と思ったりもしたけど、タランティーノのなかで一番ジャンル分け不能で実験的なのも確か。ゴダールをよく引き合いに出して語られることが多いけどもこの不思議な感覚はヨーロッパ映画にもありそうだ。
なのにこの映画を覆い尽くすカルチャーは全てアメリカンなのがまたわけわからない。

パルプな映画、パルプな小説の体裁を、確かな演出力と共に解体するとラストで変な感動がある。
でもあの引用が高尚に見えてパルプだったりするから油断ならない。
イントロ勝負の選曲かと思いきや沈黙もいちいちかっこいい。
罵声の限りを尽くすサミュエル御大のハイテンション演技も楽しいけど、ラストの彼の演説の抑えたトーンは絶妙だ。
俺たちの!ボンクラ!といったイメージもあるけど、本作は進化をやめないタランティーノの映画監督としての強かさ、タフさもまた示してる気がした。
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