創

ヒトラー 〜最期の12日間〜の創のネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラー 〜最期の12日間〜(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

いろんなところで面白おかしい仕上がりになっているものを見かけるけど本編通して見てるから全然笑えない。
本当に思考停止に陥るぐらい全然笑えない。良いとか悪いとかじゃないの。本当に素直にただただ笑えない。

ナチスドイツが負けるのも、ヒトラーが自殺するのも、歴史的事実なので結末は分かってる。
ただただ、重い時間が流れるだけなのが分かってるのにCATVで見かけると毎回ついつい最後まで見入ってしまう。

何人かいたヒトラーの秘書の一人を中心に置いてはいるけれど、物語としては決して親切な作りではなくて、むしろドキュメンタリーを観ているよう。

私はゲッベルス一家の心中を知っていた。

知っていても辛かった。
敗戦の絶望が濃くなる地下壕の中で唯一の癒しであった姿を見せられた後だとより辛い。

例えこの子達が裕福で幸せな子供時代を過ごしていたとしても、一方で理不尽に奪われた小さな命が無数にあったとしても、
それはナチスの行いとはまた別のところで語るべきことのひとつだと思う。
そう思ってはいるけれど、それは私が戦後日本生まれだからかもしれないとも思う。
当事者にはなれないし、可能な限りなりたくない。

たくさんの登場人物は、馴染みのないドイツの名前と相まって有名どころ以外全く覚えられない。
あー?この人さっきも居た?んー?違う人かな?あれ?この人さっき脱出してなかった?あ。別人か。
みたいな多少の混乱が続くのだけど、ユダヤ人虐殺を知らなかったという秘書なら、
例え総統秘書だったとしても、今見る有名どころ、つまり結構な立場の人と、個人的な繋がりがある人以外は分からなかったのかもな。と思う。
しかも、敗戦前夜の地下壕の中で、日頃どれだけ威厳ある人だったとしても、どれだけその威厳ある姿を保てていたかは分からない。

終わりへの見えないカウンドダウンの中でも、ヒトラーにはまだある程度の求心力があって、
おかしな指示でもおかしな様子でも、総統はもうダメだという人がいる一方、総統!総統!総統が言ってるんだから!って人が一定数いて怖い。

ヒトラーもどんどん老け込んで訳のわからない事言ってる一方で、
今日のご飯めっちゃ美味しかったよ。ありがとね。
とか言えちゃう人間性があるのも怖い。

もう負けるのが分かっていて、この先幸せになるなんて絶対無いのが分かってるのに、
それでもヒトラーを愛し、ヒトラーと共にいる事を選び、結婚してしまうエバも怖い。
そして最終的にひとつの幸せを手に入れるのも怖い。

ベルリンの街中で、死体がぶら下がってる状況になってもなお、総統のために戦おうとするのも怖い。

良心のように描かれる教授も、ちょっと頼りないかな?ぐらいに描かれる外交官も、
むしろ他の有名どころの人の多くが、伝わってる話を思い出すとそうは見えなくて怖い。

最後の最後に、知らなかった。知らなかった自分を今では恥じている。みたいな事を語るユンゲ本人も怖い。
なんだろう。そう言う彼女も、そう言わせているものも、本当かよと思ってしまう自分も怖い。

ヒトラーを、ナチスを、その行いを、その後の世界を、知った上で見ても、
どう観たらいいのか、どう考えたらいいのか、どう感じたらいいのか毎回戸惑う。

正直に書けば、因果応報だと思う瞬間も、これはさすがに…と思う瞬間もある。
それこそがこの映画の肝で毎回最後まで見てしまう魅力のひとつなんだと思う。

真摯にリアルに、そして全方位に敬意を持って作られた映画だと思う。
創