Inagaquilala

チェイサーのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

チェイサー(2008年製作の映画)
4.1
すでに何回も観た作品であるが、やはり傑作の名にふさわしい。前半は、「犯人」を探すミステリーなのだが、中盤で、犯人は容疑者として逮捕されるのだが、警察内部の諸事情もあり、証拠不十分で釈放されてしまう。もちろん観る側はその時点で「容疑者」が「犯人」であることは、ある程度わかるストーリーの流れになっているのだが、そこからの展開がまた素晴らしい。犯人を演じたハ・ジョンウの不敵な演技も卓抜なのだが、小売店での静かな殺戮やシンボルのように登場する教会の十字架、そして庭をうろつく犬など、監督のナ・ホンジンが配した舞台設定は、のちの「哭声/コクソン」を予感させる不気味さを漂わせている。すでにホラーに近いかもしれない味わいだ。

ミステリーの場合、謎解きをする主体を誰にするかが、その物語の色彩を決定づける重要な要素にはなるが、この作品では、元刑事のデリヘルの経営者(キム・ユンソク)としていて、失踪したデリヘル嬢を探すことで、「謎解き」に参加していく構造だ。もちろん、元刑事という経歴も生かし、警察にもコネクションがあり、単純に「アマチュアの捜索者」とは言いがたいのだが、このデリヘルの経営者にしては、なかなか気のいい主人公の存在が、また作品に魅力を与えている。

2008年の作品なのだが、ナ・ホンジン監督は、この10年間に、この作品と「哀しき獣」(2010年)、そして前出の「哭声/コクソン」(2016年)と、たった3本しかメガホンを取っていない。これだけの才能であるのに、やや残念ではあるが、この余裕のあるローテーションが、ある意味、傑作を次々と生み出している秘密かもしれないし、お隣の韓国では、これで十分に映画監督としてやっていけるという証左でもある。次回作が待たれる監督の1人だ。
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