カタパルトスープレックス

蜘蛛巣城のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
4.3
黒澤明がシェイクスピア『マクベス』を題材とした戦国モノ。『スターウォーズ』のインスピレーションの一つとしても有名。

この辺が黒澤明監督の全盛期だったんじゃないかと思います。1950年代前半も『羅生門』(1950年)や『七人の侍』(1954年)で特大ホームランを打っていますが、『白痴』(1951年)や『生き物の記録』(1955年)のような凡打も打ってる。ホームランを連続しはじめたのって『蜘蛛巣城』からだと思うんですよね。ここからしばらく凡打がない。『ドカベン』の山田太郎級。

「ヒューマニズム」という説教くさくなりがちなテーマを追いながら文学青年としての自分と映画監督としての自分と折り合いがついたんじゃないかと思います。

本作も『羅生門』のフォーマットを踏襲して反面教師を出して「善く生きるとは?」と問いかけます。その代表が主人公である鷲津武時(三船敏郎)であり、その妻の浅茅(山田五十鈴)です。ストーリーを簡単に言えば出世欲に目が眩んで人の道を外して人生を転がり落ちてしまう。『羅生門』も『どん底』(1957年)もそうですが、人としての弱さを持つのが人間。

本作がすごいのってカタルシスがあるところ。途中が説教くさくても、最後にヤられちゃう。やっぱり有名な弓矢のシーンは白眉ですよね。テグスでコントロールされているとはいえ、実際に打ち込まれたのですから、たまったもんじゃない。そりゃ迫力でるよ。あと、舞台の作り込みがすごい。ちゃんと戦国時代のお城を建てちゃってる。江戸時代とは違う戦う城になっている。羅生門もすごいと思いましたが、本作はさらに上をいっている。

画面カットも素晴らしいですね。能を意識したヒキの映像。ロングショットによる全身が収まるフルフィギュアが多用されています。撮影監督は『七人の侍』と同じく中井朝一。本作で喧嘩別れをしてしばらく一緒にやらなかったのは惜しいですね。