チッコーネ

浮草の宿のチッコーネのレビュー・感想・評価

浮草の宿(1957年製作の映画)
3.5
春日八郎主演のミュージカルサスペンス企画だったのでは、と勘繰るが、監督の監督たる映画術により、製作意図が完全に形骸化しているようで面白い。
ナイト・フォー・ナイトショットに雨がプラスされたことでさらに印象的な雰囲気が生まれている冒頭、喧噪と臨場感が半端ない盛り場が背景となった場面の連続、そして1シチュエーションで人物の構図が目まぐるしく入れ替わる撮影/編集などなど、どれをとっても非凡。
もし私が同時期の日活に所属するマニュアル型監督であったなら、その天衣無縫に慄き、嫉妬したことだろう。

いわゆるカバーポップスの流れと親和性ゼロな春日の持ち歌に合わせたのか、本作の音楽はジャズでなくオーケストラ風。
盛り場場面にフレンチカンカンが取り入れられているのにも驚く。
二谷英明はまだ若いこともあるが、演出の力も相俟って、ダンプガイの佇まいとは別人に見えた。
山岡久乃が妖婦役を務める作品というのも、レアだ。