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ウォーリーのRenのレビュー・感想・評価

ウォーリー(2008年製作の映画)
5.0
紛れもなくピクサー最高傑作。オールタイムベストの一作。ディズニーではない、ピクサーだからこそ作り得た映画だ。初めてDVDでなくBlu-rayで買った作品だった。

オープニングから素晴らしい。ともすればSFホラーのようになりかねないところを、『ハロー・ドーリー!』の楽曲『Put on Your Sunday Clothes』に乗せて見せることで、幸せなことが起こることを予感させる。

Google Earthのように地球にフォーカスしていくと、映し出されたのは一面のゴミのタワーと作業を繰り返す一体のロボット。人影は無く、すっかり荒廃した地球。という不穏な幕開けから確実にピクサーが新境地を開こうとしている姿勢が見られるが、そこから登場人物の台詞無しでストーリーを進める技量にも驚き。
前半30分を、ロボット2体とゴキブリ1匹、発せられる台詞はせいぜいお互いの名前くらいで全く飽きさせず引っ張るのはまさにプロの仕事。

ノンバーバルで展開するストーリーに圧倒的な説得力を持たせる、ウォーリーとイヴの豊かな感情表現と背景の描き込みはまさに圧巻。ピクサーのCG表現の一つの到達点だと断言できる。

そこから一気に明るくてカラフルな画づくりとスピーディーなストーリーテリングにギアチェンジし観客を惹きつける展開も良く、この緩急が作品全体を引き立たせている。

21世紀だからこそ真剣に、国籍関係無く向き合わないといけない環境問題をかなりダイレクトに取り入れた、ピクサーでも指折りのメッセージ性の強い作品である。
ラクをするために人間はロボットを作り出し、そのロボットにラクをし続けた成れの果ての人間が丸め込まれていく。動く椅子無しには二足歩行すらできない人間たちが溢れる宇宙船は「ディストピア」の文字がぴったりだ。『トイ・ストーリー2』でも露骨だった『2001年宇宙の旅』オマージュはより本筋に絡むように全面に押し出される。AIの暴走。
一方で、2体のロボットによる純然たるラブストーリーとしてもとにかく良質な一作。今作に限らず、社会的メッセージを入れ込んだ映画をピクサーという大会社が全年齢対象で作ったということに意味を感じる。

ラストカットもお見事。人類は大きな一歩を踏み出したけど、引きで見た地球の姿は....。地球のさらなる未来への希望を確かに感じさせる、この余韻が素晴らしい。

サブキャラももれなく可愛いので推しを見つけて追いかけてほしい。イチオシはお掃除ロボットのモー。本編を鑑賞した方には、短編『バーニー』もおすすめ。
そしてこの映画だけは絶対に、エンドロールを楽しんでほしい。実際の美術史を辿るように展開されるアニメーションと、そこにかかるPeter Gabrielの大名曲『Down to Earth』が、思わず涙してしまうほどに素晴らしいので。
エンドロールを観終えた後に訪れるどんでん返しとも呼べるようなある演出で観客を最後まで油断させない。自分たちが今まで観ていたものすら、掌の上だったのかもしれない。


《第71回アカデミー賞戦歴》
受賞
★長編アニメ映画賞
ノミネート
⭐︎脚本賞
⭐︎作曲賞
⭐︎歌曲賞(Down to Earth)
⭐︎録音賞
⭐︎音響編集賞
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