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テイク・シェルターのnetfilmsのレビュー・感想・評価

テイク・シェルター(2011年製作の映画)
4.3
 風にそよぐ木々、もくもくと空向こうから湧き出す雲、程なく雷鳴が轟いた後、空からはエンジン・オイルのような粘り気のある雨が降る。今作の主人公カーティス・ラフォーシュ(マイケル・シャノン)は神経症的な表情で何度も空を見上げる。そして空を見上げた瞬間から、何度も悪夢にうなされて目覚める。核家族の長であるカーティスはオハイオ州の工事現場で地盤の掘削作業をしていた。気立ての良い妻のサマンサ(ジェシカ・チャステイン)は難聴の娘に手一杯で、夫の稼ぎに頼る日々。3人は平凡ながらローンでマイホームを持ち、お金はないながらも幸せな日々を送っていた。部屋の中は一見、理路整然とものが整頓されているように見えるが、庭先に置かれた廃材の山が異様に映る。クギが剥き出しになった廃材は片付けないと危険なものだが、案の定娘は鋭利なクギの刺さった角板に好奇心で手を伸ばす。サマンサが1文字ずつ娘に教える「STORM」の綴り。カーティスの留守中は室内犬のレッドが番犬代わりに家を守っている。親友のデュアート(シェー・ウィガム)とコンビを組む掘削作業は男にとってもやりがいのある仕事だった。工期を挽回し、仕事も家庭も大事にしたいと考える子煩悩な父親は、約束していた娘の手話の授業に遅れそうになり、油まみれの身体のまま教室に向かう。その笑顔は満ち足りた表情に見えるが、4日ほど前から悪夢にうなされ、嵐が襲う神経症的な夢を見るようになった。

 冒頭、世界は既に終末に向かっているが、それはカーティスの見た夢であり、幻覚にも近い。オハイオの何気ない日常は淡々と進むのだが、カーティスの内面だけはどうしても「嵐」の予兆が消えない。難聴の娘と主人公の関係性は、『ミッドナイト・スペシャル』のアルトン・マイヤー(ジェイデン・リーバハー)と父親ロイの関係性と同じ構造を帯びる。主人公の妄執は徐々に正常な判断能力を失い、狂気に引っ張られる。その端緒はカーティスの生い立ちに起因する。30年前、統合失調症の母親サラ(キャシー・ベイカー)は父親や子供たちと離れ施設に移り住んだ。カーティス自身も35歳になり、悪夢のような不眠症に母親の影がちらつく。実兄カイル(レイ・マッキノン)や親友デュアート、何より妻のサマンサが手を差し伸べようとしても、カーティスは好意を全て破棄し、ローンを切り崩しただひたすら「シェルター」作りに精を出す。風景の不変に抗うような紙幣の無価値化というはっきりとした予兆、TVで何気なく流れた実業家ジェイコブス氏のガス漏れ事故のニュース、「信じられるか?」と妻に問いかけたカーティスの妄執は、家族を守ろうとする愚直なまでの愛情に他ならない。『ミッドナイト・スペシャル』同様、勝手に道路に出た娘をカーティスは抱きかかえながら、境界線のこちら側に連れ戻す。ジェフ・ニコルズの映画において、抱きかかえる父子の姿は愛情の符牒として印象付けられる。弱冠33歳で撮った今作でニコルズは見事、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリを獲得した。
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