ちろる

折鶴お千のちろるのレビュー・感想・評価

折鶴お千(1935年製作の映画)
4.2
女をとことん痛めつける溝口美学。
嗚呼、泉鏡花よ、、そういう意味では「残菊物語」よりもよっぽど残酷なお話である。
作品は残っている溝口の作品の中でも古い作品。
不鮮明な映像、不鮮明な音質に惑わされてはいけない。
ラストの方では「カリガリ博士」等でも使用された幻想的特殊映像の挿入、時系列を巧みに入れ替えた、当時としては実に実験的とも言える映像に目を見張る。
しかし「折鶴お千」とは、見事なタイトル。
神々しいほどのお千が、魂を吹き込む折鶴が魔法をかけられたように飛び立つシーンは涙なしで観ることはできない。
今の時代観れば、女が聖母と化すには、ここまで「男」の犠牲にならなければいけないのだろうか?という「残菊物語」同様の憤りを感じずにはいられない。
が、山田五十鈴の魂をかけた演がその憤りすら吹き飛ばしてくれるのだ。
女を踏み台にして成功した男たちはこの時代にどれくらい数いたのだろうか?
と血の繋がらないを弟の如く宗吉に尽し、やがてとち狂っていったとしても結婚や家族との生活を望めるはずもなかったお千にとって、宗吉を支えるあの時間だけが温かくて幸せな時間だと願いたい。
戦後、この映像を見つけ出したマツダ映画社の松田氏の根性にも拍手です。
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