けーはち

素晴らしき哉、人生!のけーはちのレビュー・感想・評価

素晴らしき哉、人生!(1946年製作の映画)
4.0
世界を旅し建築家になる自分の夢を諦め、父親の事業を継ぎ、良心的な住宅金融を運営してきた実業家の男であるが、身内の失敗から資金繰りに詰まり、背任容疑をかけられ自暴自棄になり身投げを思案する。見かねた神様は、彼に少し間の抜けた二級天使を遣わし、初めから「彼の存在しない世界」、つまり彼の助けてきた人が、誰も助からなかった、if世界を見せる──

クリスマスの祝福、ふしぎな奇跡を描く1946年のクラシック映画の大定番。美しい童話のような人生讃歌。

その人生って奴なんだが……いつ誰がどのように見ても「素晴らしい」っていうのは、なかなか難しいもんだ。本作主人公の場合、田舎のちょっとした名士の長男で、土地・家(事業)・家族による呪縛がキツい。それらを愛すればこそ自ら周りがそう望むよう自己犠牲を強いてしまう。

前半、神様による主人公の人生紹介パートでは、基本的に自由気ままに道を選んで大活躍する弟に比べ、彼は自己犠牲を選ぶ。『鬼滅』の炭治郎並に「長男だから我慢」する主人公のフラストレーションは募る。彼を縛るものが父親から継承した慈善性の強い事業や妻子に変わっても同じ。ライバルの資産家に銀行口座を押さえられれば、新婚旅行の資金をはたいてまで貸付をする主人公の善心がそれを押し留めている訳だが、後半、ボロボロになって溜めに溜めた抑圧が爆発し出すと、善人である彼は全てを滅茶苦茶にする前に自ら死を選ぼうとするのである。

それでも天使にif世界を見せられて、結果的にこれまでの人助けが何も間違ってなかった、もし自分が刑務所にブチこまれたとしても自分の人生は素晴らしかった!……と聖夜の祝祭とともに全肯定。もうその資質こそが素晴らしい。

私は天使や神様に愛される善人にはなれないが、素晴らしい彼らを傷つけたり後悔させたりしないよう、そんな彼らにはせめて優しく生きていきたいと思うのだった。