ケンヤム

現代やくざ 人斬り与太のケンヤムのレビュー・感想・評価

現代やくざ 人斬り与太(1972年製作の映画)
4.5
嘘っぱちの繁栄を楽しめない男の話。
戦後社会において、そういう人はたくさんいたのだと思う。
惨たらしいこと、汚いことを見て見ないふりをした嘘っぱちの社会。
ちんまりまとまって、平和と繁栄を貪る人々の仲間に入れない、なんだかそこに乗り切れない人々。


この映画の監督である深作欣二自身がそういう人だったのだと思う。
おかしいこと、汚いことそれをそのままにして生きていけないよ。
つまんねぇよこんな世界。


もし当時自分が、特攻に行き損ねた帰還兵だったとしてこの映画を見たらこう思ったと思う。
「俺の事描いてくれてる人がいる!俺の事見てくれてる人がいるよ!」


戦前、戦中、戦後とこの国には暴力が受け継がれている。
その暴力によって、死んでいく若者たち。
破滅していくしかなかった若者たち。
今の自分はそんな破滅的な状況には、置かれていないのかもしれないけれど、なんだか世の中狂ってるような気がして乗り切れなくて、一人で映画見て「そうだよな!深作さん!三池さん!たけしさん!」なんて心の中で叫んでる自分にとって、この映画の菅原文太の生き方を人ごととは思えない。
そうしか生きられない人々の気持ちを見て見ないふりをすることほど、暴力的な行為はない。


自己責任。
こんな残酷な言葉が蔓延ってる社会で、菅原文太は本当に責任を果たすということは何かということを教えてくれる。
菅原文太は2014年の11月28日、この国の暴力、欺瞞、矛盾を道連れにして死んでいったんだ。
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