カタパルトスープレックス

按摩と女のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

按摩と女(1938年製作の映画)
4.5
清水宏監督によるシンプルで美しい映画です。山奥にある自然に囲まれた戦前の温泉街の美しさ。そこに配置される人たち。一つ一つのショットが絵になっている!これが太平洋戦争3年前の日本なのかあ。

ストーリーはとてもシンプル。季節によって海の温泉街と山奥の温泉街を行き来する按摩二人、徳さんと福さん。夏になって海から山へ歩いていく二人。健脚なので目明かしをどんどん追い抜いていく。そんな二人を追い越した乗合馬車の乗客の女性。徳さんはその女性(高峰三枝子)に恋心を抱くようになるのだが……という話です。

清水宏監督の主人公たちは子供だったり、盲人だったり、ワケアリの女性だったり社会的弱者です。しかし、そんなステレオタイプに反して清水宏監督が描く彼らはとても強い。徳さんなんて座頭市なみに強いですし、川だって泳げます。清水宏監督作品は常に弱者に寄り添い、そんな彼らを美しい自然をバックに描写する。その一枚一枚の絵がとても美しいんです。

今回は高峰三枝子が綺麗だったなあ。『有りがたうさん』(1936年)の桑野通子も綺麗でしたが、高峰三枝子の物憂げで儚い美しさも良い。鯨屋の傘がとてもよく似合うし、一枚の絵として素晴らしい。

ストーリーや演出って経年劣化してしまいますが、絵画は経年劣化しないんですね。活動写真とはよく言ったものです。自然を背景にした盲人、子供、女性。それだけでこんな作品ができてしまうんだから。