一丁のコルトから始まる事件の連鎖。ヒッチコックなどのハリウッドサスペンスにも引けを取らない良質サスペンスである。
三船敏郎演じる新米熱血刑事・村上のピストルが何者かによって盗まれることから事件は起こる。自らのピストルによって民間人が殺されるのではないかと危惧した村上はピストル回収に奔走するが事件はどんどん複雑になっていくというストーリー。
犯人の身元を最後の最後まで引っ張って、観客を宙ぶらりんの状態にするいわばサスペンスの典型手法が今作では採用されている。なので、一定の面白さは担保されている。しかし、サスペンスに慣れ親しんでいる我々からすると、物足りないと感じることもあるだろう。
だが、今作の面白いのはサスペンス的要素だけではない。昭和の風俗が今作では詰まっているのである。村上が犯人を追う過程で様々な大衆娯楽に潜入するのだが、黒澤監督作品の中では珍しく大衆の暮らしが丁寧に描かれているのだ。野球場、キャバレー、それだけでなく昭和の街並み全体がきれいに映されている。
当時は49年とまだ、戦争の香りが十分に残存している時期であり、そのアンタッチャブルな雰囲気は好きな人には大好物だろうし、当時の風俗を伝える資料的側面もある。
さらに音楽にはかなり凝っているようであり、特にクラシック、民謡を意図的に取り込んでいる。物語の山場である場面で的外れなクラシックメロディを挿入したり、ラストの犯人とのチェイスで民謡をバックでくっつけることで「はずし」効果が生まれている。この絶妙なコントラストがまた良い。