Mikiyoshi1986

野良犬のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.3
明日3月23日は"世界のクロサワ"こと黒澤明監督のお誕生日!
生きていれば108歳に。

黒澤が世界的な名声を得ることになる『羅生門』の前年、彼が初めて犯罪サスペンスに着手した代表作の一つ『野良犬』は、
フランスの犯罪小説家ジョルジュ・シムノンの作品から着想を得た通り、シーンの端々からはどこかフランス映画のような趣を感じさせます。

また本作で戦後派犯罪・所謂アプレゲールを取り扱った黒澤はその約15年後、
アメリカの犯罪小説家エド・マクベインに触発された傑作『天国と地獄』で高度経済成長下の青年犯罪を描き、
再び現代社会における"善悪の明暗"について切り込みました。

三船敏郎演じる新米刑事・村上が一挺のピストルをスられたことで深刻な犯罪に発展していってしまう閉塞感。
村上にのしかかる自責の念、苦悩、焦燥は汗ばむ夏の熱気と混ざり合い、強烈なむさ苦しさが画面から押し寄せます。

タイトルの『野良犬』とは実質的に犯人を指す一方、
村上が復員兵に扮装し、昼夜手掛かりを求めて戦後雑多な闇市界隈を練り歩く姿は犯人より幾分も野良犬のようであります。
同じ復員兵という境遇から善悪の分かれ道を辿ったこの二人は謂わば表裏一体の存在であり、
ラスト、野に伏せる二人のシンメトリーの構図も大変印象的。

また、ベテラン刑事・佐藤が単身で犯人に迫っていくシークエンスの構築は実に見事だし、
村上刑事が犯人を追い詰めるクライマックスも迫真の出来です。

敗戦後まだGHQの統治下に置かれ、希望さえ希薄な混乱期の日本にて「善悪」の所在を見つめた本作。

劇中で唯一、清涼感を感じさせる佐藤刑事の我が家。
こっちがヤニクラしてしまいそうな千石規子のスモーキング。
淡路恵子の狂気じみた回転。
などなど、脳裏に焼き付いた映像は今でも鮮烈です。
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986