「僕はこう思うんだ。世の中は悪い。しかし何もかも世の中のせいにして悪いことするやつはもっと悪い。」
恐ろしく暑い夏の日に、拳銃を盗られた。
そして起こった強盗事件。
使われたのは自分のピストルだった。
自責の念に駆られる新人刑事・村上は、ベテラン刑事・佐藤とともに捜査を進めていく。
「僕が出張に行く前、このトマトはまだ青かった。それがこんなに赤くなった。それなのに妻はもういない。」
拳銃はついに人を殺した。
庭先の砂利に、グシャリと潰れた赤色が滲んでいる。
盗まれた拳銃に、弾はあと5発残っている。
灼熱の野球場から上がる歓声、向ける拳銃。
幼なじみの踊り子は買ってもらった白いドレスでくるくると回りながら笑っている。
雨が降る、雷が鳴る。
犯人の靴音は電話BOXまで届かない。
村上は駅の待合室に急行する。
「慌てるな、どれが遊佐だろう」
新聞を読むあいつか、それともサングラスのあいつか。
麻の白いスーツ・・・そうだ、あいつは雨の中ここまで走ったはずだ。泥だらけの靴、泥だらけの靴・・・。
生い茂る雑草を掻き分けた、ピアノを練習する音が聴こえた。
撃たれた左手から滴る血は白い花を揺らした。
「今日も眠れない。雨の音の中から、あの捨猫の声が聞こえるような気がする。雨の中でまとわりついて来たあいつ。一思いに殺してやれと思って踏んづけたあの足の感じがまだ残っている。俺は弱虫だ。あのびしょ濡れの猫と同じだ。どうせ・・・」
小さな花が咲いている。
花を越えて空が見える。
子らが歌いながら歩いている。
あいつは泣いていた。