ちろる

都会のアリスのちろるのレビュー・感想・評価

都会のアリス(1973年製作の映画)
4.1
ペーパームーンと同時期に作られ、あまりに内容が似ていたために公開の中止を考えたという噂のある本作。
たしかに中年&少女のロードムービーで、ネタも展開も似ているが、あちらがエンタメ系「動」の作品だとしたら、こちらは詩的な雰囲気もある「静」といった感じ。
アリスのいなくなった母親を探すためにモノクロームで流れる電車や車、バス、カフェ、モーテルのローアングルでの映像は、NY、アムステルダムを彼らと共に旅したような気分になります。

不器用な2人故になかなか弾まない会話、2人の気まずい沈黙も含めてこの作品にただよう気怠さがリアル。
憂鬱で疲れを隠せない主人公フィリップですが、葛藤しながらもアリスを完全に見捨てられない彼の優しさのおかげで、2人が擬似父娘ののようになっていく様子が無理なく描かれているところも好きです。

ストーリー自体はこれといった大きな出来事があるわけではない淡々としたロードムービー。
ただ、淡々としているからこそラストに向けて、2人が必死で距離を詰めていく感じがなんだか胸がギュッとなるんです。

無口なフィリップとおませなアリス、この2人がとても魅力的なので、まだずっと見ていたかったなと思わせる、憎い演技をしてくれました。
全部はわかりませんが時折流れるチャック・ベリー、キャンド・ヒートなど、ロックやブルース、そしてジャズ音楽が実におしゃれ。
始終流れるあの不穏な音楽も良き。
ちろる

ちろる