Jeffrey

牡牛座 レーニンの肖像のJeffreyのレビュー・感想・評価

牡牛座 レーニンの肖像(2001年製作の映画)
3.0
「牡牛座 レーニンの肖像」

冒頭、ここはどこかの人里離れた森の中の別荘。病人レーニンの姿、ここで暮らしているのか、妻と妹の介護、護衛する兵士たち、監視、電話、手紙、見舞客のスターリン、2人の対話。今、権力の残骸が蠢く美しく緑に囲まれた別荘内が垣間見れる…本作はソクーロフが2001年にロシアで監督した権力者3部作から膨らみ、歴史4部作となったシリーズの第2作目に当たり、前作のヒトラーを取り上げた「モレク神」に続いて病弊に倒れ、人里離れた別荘に隔離された革命家レーニンの最晩年を描いた作風である。このたびDVDボックスを購入して鑑賞したが秀作である。とりわけロシア革命を指導して成功に導いた革命家レーニンが病に倒れてボケてしまった晩年の姿を描写している。

まず、本作の中心となる登場人物の病人とされるレーニンは1917年に起きたロシア十月革命の指導者であり、ソビエト国家を生み出した人物である事は周知の通りだ。そしてこの作品は彼の病状が悪化して、革命の先頭に立つ姿ではなく、山奥の邸宅に半ば隔離されている状況で描かれている。この作品は実際にレーニンが晩年を過ごしたモスクワ郊外ゴールキの別荘が使われているようで、別荘を取り巻く美しい自然が冒頭から写し出されていて非常に魅力的である。

さて、物語は人里離れた森の中の別荘で暮らしている病人(レーニン)が妹の介護を受けながら警護する兵士たちに常に監視され生活している。そういった中、スターリンが彼に面会しに来ると言う話である。大自然の森の中で撮られた美しいショットは魅力的であるし記憶に残る。


本作は冒頭から魅力的である。霧のかかった大自然がロングショットで捉えられ、1人の兵士らしき男がタバコを吸いながら森を散策する。続いて別荘の中にカメラは入り込み、ベッドに横たわる疲弊した男の姿を映し出す。彼は水を飲み、周りには介護する女性の笑い声、その男の名前は革命家レーニンである。そして彼の独白が静かに観客に向けられる。

そして嫌がりながらも洋服に着替えさせられ、医師が到着し彼を診断する。そして医師は2ヶ月位で復帰できると彼に言う。続いて妻がその病人の部屋にたどり着く。医師は峠は越えたと言う報告を彼女に伝える。そして護衛の1人が病人の足の爪を切る場面へと変わる。妻は病人が昔頼んでいた"ロシアにおける体罰の歴史"の文献を見つけたと伝える。

ところが彼は護衛を指差して妻を黙らせる。そしてむち打ち刑の話を妻に聞く。そうすると彼女は本を読み上げ、さらに子供の体罰の話をするが、病人が理解していないことに気づいてしまう。彼の持つノートを取り返そうとすると病人が掛け算のやり方を聞いてくるので、説明するが病人は理解できず、妻のメガネを奪い警固長パーコリ呼び付ける。

そうした中、電話も手紙も来ないことに彼は苛立ちを見せ、使用人の女性が彼をベッドに寝かせた時に"あなたはここの誰にも好かれてない"と告げる。カットは変わり病人の妹と妻が洗濯をしている場面へと変わる。妻は石鹸を手に取るが、滑って落ちてしまう。妹は妻に洗濯を止めさせ座らせる。貧しい技師のことを案じる義姉に対し、妹は身内のことを案じてほしいと頼む。

どうやら1918年以来4年間も母のお墓参りをしていないようだ。カットは変わり屋敷の外へ。洋服を着たレーニンが現れ妻に腕を抱えながら歩いて出て行く。どうやら狩りに出かけるようだ。そして彼は関係者とともに車に乗り出かける…と簡単に説明するとこんな感じで、この作品には雷が鳴るシーンが2カ所あるのだが、中盤と終盤だ。それは何を暗示しているのだろうか。それと霧が空から晴れ始め、鶴の声が鳴り響くクライマックスも非常に印象的だ。



ちなみにこの作品でレーニンの脳を見てみたいと言うフェルスターと言う医師がいるのだが、実際に彼が死んだ1925年以降にモスクワで脳研究所が設立されあらゆる角度から研究が行われたそうだ。それと劇中で森へと散歩するシーンでは治療目的として推薦されていたそうだ。

それにしてもレーニンの闘病生活と同時に政治の世界でグルジア問題がレーニンとスターリンを巻き込んで展開したスターリンとの対立も非常に興味深い。この作品についてのアプローチが少しばかり変わっていて、登場人物の名前が出てこない。例えばレーニンの場合は病人と付き、彼の奥さんの場合は妻であり、妹は妹として出てくる。それに入念な調査に成功しているようにも感じる。レーニンの自伝的事実を踏まえた上で監督は政治的背景に言及していない。


にしても、スターリン役の役者がめちゃくちゃスターリンに似ててびっくりする。かなり特殊メイクで似させてるなぁ。レーニン自体も晩年の彼にそっくりだし凄すぎる。台詞もそうだし様々なエピソードをうまく構築するための手法が施されている。歴史上の人物を扱った3作品もそうであるように…徹底しているが、正直、ソクーロフの権力者4部作はどれも退屈すぎる。娯楽向けには作ってない事は一目瞭然だが、ヒトラーを描いた作品は多少なりとも群像劇がある分、娯楽向けにしている気がしたけど、それでも退屈である。とにもかくにも静かに淡々と進む分、ソクーロフが見る権力を持った人間の末路をとらえるにはこのような演出が真っ当なのだろう。

ところでこの作品ソクーロフ自体が撮影監督をしているのだが、前作のカメラマンをクビにしたと言う話は聞いたのだが、それが理由なのだろうか?それと余談だが、前作のヒトラーを扱った作品同様に、この作品もビデオバージョンがあるとのことで若干のエピソードが追加されているようだ。それも見てみたいのだが、今のところどうやって見るのかよくわからない。

そういえばこの作品のタイトルの牡牛座の意味するものって少し気になって調べたのだが、そこまで日本のサイトには載っていなかった。日本では単語として終わるが、どうやらヨーロッパやロシア語では少し色々と連想させる意味があるようだ。きっと旧約聖書に登場するものに置き換えて、金の子牛と言う意味があるそうだが、それを何らか連想させているのだろう…。とりあえずレーニン、スターリンを連想させると言ったら暴力主義的革命観しか考えられないのだが…。

北方領土を奪っている時点でロシアに足を踏み入れたいとはなかなか思わないのだが、このレーニンが1924年1月21日に起きた発作で死去して以来、遺体を永久保存されているモスクワの中心にあるクレムリン脇の赤の広場に設置されたレーニン廟で現在に至るまで展示されている所にはいちど行ってみたい。
Jeffrey

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