さききち

リリイ・シュシュのすべてのさききちのレビュー・感想・評価

リリイ・シュシュのすべて(2001年製作の映画)
3.9
冒頭から色彩と照明が冴えるが、
後半、あるシーンを起点に、構図と感情の洪水が押し寄せる。

決してこの映画をフルで理解しているわけではないけれど…

思春期の繊細で傷だらけで多感で、
永遠に続くような躁鬱の起伏の中で、
深まる精神的曇天と言語化できない苦しみ。
その多くは、仮に言語化できたとしても、
当人にしかわからないものであって、
他者には真に共感することはできない。

言語化できない想いを昇華してくれるものの1つが、具象化された作品であり、音楽だ。日々、繰り返す焦燥と自己嫌悪と閉塞に、救いを与えてくれるのが、リリィ。リリィ・シュシュの存在、リリィ・シュシュの楽曲たちだ。かたちは違えど、我々の記憶の中にもリリィ・シュシュは存在している。それは、あなたが好きなあの歌手のあの曲であったり、あの映画であったり、あの絵画であったり。

この映画を観ると、学生時代のあの時、「こうしていれば良かった」と思う後悔や、はち切れそうな劣等感、好きという想いや、具象化できずに死んでいった気持ちたち、小学から中学で変わっていった自他、そして疎遠になった友達や夏の日の汗、雨の日の学校の湿度、言語化しきれない沢山の感情や五感全部の記憶が一気に押し寄せてくる。

鬱映画と良く言われるが、多感で敏感な時期を揺さぶり起こす、感情の4DX映画だと思う。単純に鬱になる映画ではない。
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