KnightsofOdessa

クラムのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

クラム(1994年製作の映画)
4.0
No.879[あぁ!何と最悪に輝いているのだろう!] 80点

ロバート・クラムというと「フリッツ・ザ・キャット」くらいしか知らないのだが、彼の中では三番目くらいに有名とのことだった。一番目は「Keep On Truckin'」、二番目は「ミスター・ナチュラル」らしい(聴いたことすら無い)。しかも「フリッツ・ザ・キャット」のアニメ化に際して毒気を抜かれたため、どうでも良くなったらしく原作でフリッツを刺殺してる。このエピソードからもロバートの飄々としたヤバさが垣間見える。

ロバート自身も十分イカれているのだが、ロバートの兄チャールズや弟マクソンはもっとイカれているということが分かる。チャールズは早くからマンガに目覚め、ロバートやマクソンを動員してマンガを書いていた。画の才覚に秀でていてロバートよりも上手だったのだが、高校でいじめられたのをきっかけに50代になる今まで引きこもり生活を送っている。マクソンはそんなふたりの兄の背中を追いつつ、性的に抑圧された生活を送っていたため、今では通行人のショーツを下ろしたり釘を打ち付けた板に乗って精神統一したりしている。勿論、ロバート本人も13歳くらいでノーマルであることを諦め、溢れんばかりの性欲と他人特に女性に対する劣等感から心が徐々に歪み始めた。画風もLSDをキメて書き始めた60年代後半から変化し始め、アングラコミック界の大スターになる。カウンターカルチャー最盛期との相互作用でアングラコミックは時代の頂点に並び立つまでになる。

おそらく、ロバートと残りのふたりとの違いは売れたかどうかという話の他に次男であるということも関わっていると思う。猪突猛進の長男、世渡り上手な次男、甘えん坊の末っ子というステレオタイプに当てはまるとも思えないが、この一家においても上下に緩衝材がいるという点で次男の特権のようなものが働いたのだろう。

作中、いろいろな人が”クラムは20世紀のブリューゲルだ”とか”20世紀のドーミエだ”とか言っているのだが、ロバート本人は”書きたいことを書いている”と言っていて本当にそうなんだろうと思う。コラムニストとかが勝手に色んな意味を見出して高く評価している姿は滑稽に映る。

公人と私人としてのロバート・クラムを的確に映し出した本作がドキュメンタリーとして中立な立場に立っていることは明白だ。本作品の締めくくりは兄チャールズの口癖”何と最悪に輝いているのだろう”という一言に集約される…はずだったのだが、最後に”本作撮影後にチャールズは自殺した”という字幕で総てが吹き飛んでしまった。ご冥福をお祈り致す。
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