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スラムドッグ$ミリオネアのRenのレビュー・感想・評価

スラムドッグ$ミリオネア(2008年製作の映画)
3.5
【クイズ$ミリオネア】イギリスで『Who Wants to Be a Millionaire?』の題で開始されたクイズ番組。その後アメリカを筆頭に2012年までに119の国と地域で放送され、日本では2000年から2007年まで放送された。難易度を増していく4択クイズに答えていくことで高額の賞金を手にすることができ、インド版ではその最高賞金は2000万ルピー(約4000万円)であった。
(Wikipediaより)

まず何より劇伴がめちゃくちゃ良い。サントラだけで元取れるくらい手を抜いていないし充実しているのが最高。
ダニー・ボイル印であるチャキチャキ刻まれる映像編集はポップさや軽妙さを孕みながら、スラム街の節操の無さや雑踏の空気感とベストマッチ。字幕のデザイン一つとっても、観客を楽しませようという努力が垣間見える。
撮影も洒落ているけど被写体は決して綺麗なものばかりではない、という点もポイント。相変わらず人がトイレに突っ込む。それでいて『トレインスポッティング』のようなアングラ臭は取り除かれた100%メジャー路線のため、万人におすすめできる。

観客をスカッとさせることに特化したような作品であり、考える部分もそんなに無いほど徹頭徹尾「スラム出身の苦労した・紆余曲折を経た男がラッキーに成功していく」話なので「それで?」感は正直あるのだけど、気持ち良いエンタメ作品としての完成度は高い。
ミリオネアパートが無くとも、ジャマール(デヴ・パデル)の過去回想パートだけで一応映画としては成立してしまっている。そこに「クイズ番組でスターダムを駆け上がっていく」様が被さることで見やすさもエンタメ度も格段にアップさせたのが今作の面白ポイントだし、一見チグハグな二つの世界観を前述の特徴的編集でまとめ上げた功績は大きい。

最終問題での清々しい表情。目的を達成できたジャマールの「もうここからはどうなっても大丈夫です」感が潔くて爽快だが、そこにさらに実質的な成功も乗っかる。つらめなカットバックではあるけど、それ含めて一旦の人生の総決算がドカンと襲い掛かるカタルシスがあった。

他には語ることも特に無いけど、「安全圏の富裕層が貧困層を照射した映画」である要素が大きいところは間違い無く、今作が賞レースで爆勝ちしているのはそういうことなのだと思う。いくら格差を描いている作品とて、それを大金をかけて製作し安くないチケット代を払って観ている時点でそういう批判は映画に常に付き纏うけど、今作は「貧困の世界を生きた無学(便宜上の説明としてこう言う)の青年⊂画面越しに熱狂する人」という構造が映画内容に組み込まれている点でその色が強い。人が24時間テレビのような感動ポルノに惹かれてしまう性質が、ここには詰まっている気がした。

深く残るタイプの映画ではないけど、カラッとハッピーエンドで気軽に楽しめるのでおすすめ。エンドロールのボリウッドオマージュ?リスペクト?も含めて。
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