今は無き浅草東宝のオールナイトで、多分3回くらい見てる。今回アマプラにあったので久々に見直したら、やっぱり滅茶苦茶スリリングで面白かったわ。
名匠橋本忍のオリジナル脚本。松本清張作品を多く手がけている氏だけに清張的なサスペンスに緊張感が絶えない。(というか清張もカメオ出演してるし笑)
痴情のもつれから突発的に相手を絞め殺してしまった弁護士(仲代達矢)その直後に入った強盗が殺人犯として逮捕され、良心の呵責に苦しむ。
警察庁の検事(小林桂樹)は強盗が殺人をしたことで事件を収めるが、ふとした疑問から再捜査へ。弁護士への不信へたどり着く。
やっぱり橋本脚本に基づく物語の面白さに引きずり込まれる。二転三転する展開。緩急があってもダレることが無い。
これは第一に各俳優陣の演技力に負うところも大きいだろう。
先ずは小林桂樹。庶民的な検事として、痔に悩み、家庭じゃ奥さんに小言を言われ、部下の女子や飲み屋の女中に程々なセクハラもし(笑・当時の男女コミュニケーションのスタンダードだったとはいえ)、テレビに出てはチョット鼻高々で、でも仕事には熱心で正義感も強く誠実。
人の良いオッサンで喜怒哀楽のどの表情にも人間味がある。この検事のキャラクターがリアルさ故に、親近感があり共感できる。
対する仲代達矢も悩ましい弁護士を熱演。
他にも名演技者が共演するが、強盗犯の井川比佐志も実にふさわしい。今作最大のミスリードであった自白のシーン。病魔に冒され咳き込みながら過去を振り返り、もう良いよとばかりに「…ああ、私がやりましたっ」と言い捨てた演技力には感嘆する。自暴自棄さをちゃんと含ませているからこそ、後の展開への説得力が得られた。他にも警視庁の刑事に西村晃などハズレが一切無い。
もちろん緩急ある演出も素晴らしい。緊張と緩和の差が実に巧みだ。会話劇が多いのに全然気にならない。検事が弁護士を追い詰めるシーンのライティング、外に電車が行き来する騒がしい一室に外明かりが幾度も入り込む。追い詰め・追い込まれる者達の深層心理が巧な表現され、登場人物の心臓音まで聞こえるようだ。
ホンだけが良くても、演出だけが良くても、演技だけが良くても、このような映画にはなり得ない。あらゆる事柄が成り立って傑作は成立するのだと思われる。