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歩け走るな!の東京キネマのレビュー・感想・評価

歩け走るな!(1966年製作の映画)
3.3
この映画、コメディーとしては殆ど失敗作としか言いようがない映画だけれど、個人的には非常に面白かった。

先ず何と言っても、(東京オリンピックど真ん中の)1964年の“生きている日本”が見られるのが嬉しい。 今、この時代の映像がテレビなんかで流れると、モノクロで傷だらけのニュース映像だから、あまりリアリティーもなく、どうも違う国の風景にしか見えなかったりするけれど、この映画では当然35mmのカラーフィルムで、それもハリウッドのカメラマンが撮っているので、東京の風景が生き生きと写し出されている(勿論、ところどころは仕込みもあるけれど・・・)。

それも実際のロケーションだから、寿司屋、焼き鳥屋、中華屋などの看板を見ているだけでも楽しいし、しかも、今のディスプレイなんかより結構お洒落で格好良かったりするし、それに、一般の通行人がみな清潔で綺麗なのに驚かされる。 映画のアート・デレクションにしても、この時代のハリウッドだとシナだかシャムだかどこの国か分らない美術になったりするものだけど、多分スタッフがしっかり事前のリサーチをやったお陰で、違和感のあるセットが殆どない。

この“歩け走るな!”っていう題名は、もちろん主人公が競歩の選手っていう意味なんだけど、デカイ図体の白人が箱庭のように小さく完璧に出来ている日本の街や家をクィックに動く度に何かを壊してしまう、というニュアンスになっていて、この設定の作り込みがとても面白い。 家の中の狭い造作も、外人にとっては窮屈で居心地が悪いという感じではなく、所作動作が粗野で乱暴なので、日本人のように器用に動けず、すいません、という感じになっている。 それ以外も良くあるような日本をデフォルメして見下すようなカルチャー・ギャップではなく、ちゃんとリスペクトしているので好感が持てる。

サマンサ・エッガーの割烹着姿も可愛いし、隅田川の遊覧船上でケーリー・グラントが子供から温州みかんを貰って器用に皮を剥いて食べる姿も楽しい。 お風呂に入るとちゃんと女の三助さんが居たり(これは映画の世界じゃなくて、本当に居たのです)、横断歩道を歩くときには黄色い旗を持って歩くなんていう風景(すっかり忘れてたけど、そうだったよねえ)も、ちゃんと物語のアクセントになっていたりして、懐かしいやら嬉しいやら・・・。

ケーリー・グラントが “日本じゃなきゃオクトパスの生なんか喰えねえぞ” と人に勧めながら、自分はひっそりハムエッグを食べていたりするシーンなんかは個人的にはツボだったけど、とにかく映画スターがスターとして成立していた時代の映画なので、ストーリーの面白さはなくても十分楽しめる映画になっている。

この映画でケーリー・グラントは引退したのだけれど、まだまだ若々しくて格好いい。勿体ないなあとは思うけど、昔のスターは引き際をちゃんと知っていたし、結局、そういうことでスターとしての体面を保っていた。今スターが居ないのは引き際も知らず、みっともない老醜をさらし過ぎるからじゃないかって、61歳の格好のいい ケーリー・グラントを見ていて漠然と思ったりするのです・・・。