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アトミック・カフェのTSのレビュー・感想・評価

アトミック・カフェ(1982年製作の映画)
3.7
【核兵器に対する捉え方】79点
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監督:ケヴィン・ラファティ 他2人
製作国:アメリカ
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:89分
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映画用のナレーションを一切排し、当時のニュース映像やインタビュー映像だけを巧みに編集して完成させたドキュメンタリー映画です。かのマイケルムーアも、今作を見て映画監督を志すようになったようです。Atomicという負のオーラ満載の単語を使いながらも、今作の構成は驚くほどに陽気。そう、当時のアメリカ国民が核兵器に対してどう思っているのかがわかってしまうのです。
核兵器は抑止力どころか、長い長い戦争に終止符をうった英雄とみなされているのです。

今作は、アメリカがエノラゲイで広島に原爆を投下した事実から映されます。トルーマンのあのにやけようが妙に印象的でした。恐ろしいことに、日本が克服しなければそれ以降十数発を投下する予定だったそうです。何故広島を狙ったのかというインタビューもされていますし、焼け野原の広島、そして被爆した方の痛ましい映像なども取り上げられています。それから映像は戦後の水爆実験などに焦点をあてていきます。

先述した通り、今作の恐ろしいところは、当時のアメリカ国民の核兵器に対する感情を読み取れてしまうところにあります。今でこそ核兵器廃絶をうたいあげる世界ですが、当時のアメリカ国民はそんなこと微塵も思っていない。核兵器は賞賛され、Atomicという言葉はいわば「スーパーマン」のような正義の味方として使用されるのです。今作のタイトルも、そういうカフェがあったということで驚きを隠せない。おまけに核兵器を扱う映像なのに陽気な音楽、歌詞が流れ続けます。このギャップは一体なんなのだろうか。

また、ソ連と冷戦下に入ってからのアメリカでの核兵器対策が興味深かったです。ピカっと光れば即座に作業をやめて伏せる。そんな動作を国民は教え込まれ、それが映像に残されています。この変容が面白い。それまで自分たちだけが持つ英雄と思っていたものが、最も敵対視する国も持つことになる。その恐怖は計り知れず、このような訓練がされたのでしょう。

一から映画を作成するという点では、今作を仕上げた監督たちはほとんど何もしてないと言えるでしょう。ただし、これらの映像を巧みに編集したことこそがこの監督 たちの腕であり、社会派ドキュメンタリー映画として今も名を残しているのでしょう。
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