horahuki

悪魔の人形のhorahukiのレビュー・感想・評価

悪魔の人形(1936年製作の映画)
4.0
自由になったからには
逃げなければならない…

冤罪で17年間獄中で暮らした主人公が、のうのうと暮らす真犯人3人に対して、小型化した人間を思い通りに操って復讐を企てる人形(?)ホラー。…と言ってもあんまりホラー色は強くなかったけど…(^_^;)

『フリークス』『魔人ドラキュラ』で有名なトッドブラウニング監督作。DVDについてた解説書によるとブラウニング監督がサイレント時代に撮った『三人』のセルフリメイク的な位置付けの作品のようです。

驚かされるのは特撮技術の凄さ。バービー人形サイズまで小型化した人間がベッドやタンスをよじ登ったり、手が届かないところには足場になるようなものを運んできたりといった動作を引き気味のカメラでサイズ感に説得力を持たせつつ長回しで捉えるだけでも凄いのに、人間と同一画面内に捉えつつも違和感をほとんど感じさせなかったりと、この時代にここまでできるの?と疑問に思ってしまうほどのクオリティ。モノクロな分誤魔化しやすいとはいえ、この時点でBIG監督越えてんちゃうのん?って思っちゃう。

そしてブラウニングのうまさが出てるのは手堅いサスペンス演出だろうと思います。しっかりとパーツをばら撒いた場に外からの異物を入れることで生まれるキャラクター間の温度差と一点に集中させるための意識づけによって、最悪と最良の結末を一瞬で観客に提示し、その両極端の天秤で揺れ動くスリルがキャラクターの一挙手一投足に注がれるという誘導のうまさ。表面上の行動と裏にあるその行動の真意を観客に無駄なく伝えることで、すげぇって感情と高揚感を生み出す素晴らしい演出だと思いました。

時計のチクタク音に合わせたカウントダウンとともに期待と不安が混じり合ったハラハラ感がどんどん湧き上がっていくんだけど、その結果が齎すのは、観客が期待していたことこそが最も人道から外れたものなのであり、本作の「物足りなさ」がむしろ人として本来期待しなければならないものなわけで、そんな感じの観客側の余韻をも取り込んで演出として完成させてしまってる。

感情誘導することでその生まれた感情すら利用して観客を槍玉に挙げ、居心地の悪い気持ちにさせちゃうブラウニングさんはとんでもないなって思った。こちら側にキャラクターが話しかけてきたりとか、メタ的な発言したりとかのわかりやすい手法に頼らずに観客の生身の感情を巻き込んで、その感情の裏切りと生み出される自己嫌悪を演出のオチとしてしまうって凄いなって。

「天国に一番近い場所」から「下る」という行為が表す自身に対する罰とも捉えられる牢獄的な彼女との対比が齎す余韻もとても良かった。アレこそが二度と交わることのない「終身刑」なのだろうなと。しかもめっちゃ良い話にもってくやんけ。。。それまでは荒唐無稽な復讐劇やったのに。DVD付属の解説書ではこの終盤あたりが批判されてたけど、私は好きです。
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