カツマ

宇宙戦争のカツマのレビュー・感想・評価

宇宙戦争(2005年製作の映画)
3.7
もしウルトラマンの1エピソードで主役のはずのウルトラマンが現れなかったら高確率で世界は終わるだろう。これはそんな光の戦士も何も現れない、絶望的なほど容赦ない地球侵略をちっぽけな人類の目線から描いたお話。侵略により人類が滅びゆくとしたら、きっとヒエロニムス・ボスのような地獄絵図が完成するのは間違いない。エゲツないほどの希望の無さ、破滅的なプレリュード。全ての終わりを思わせる、人類滅亡のカウントダウンが刻まれる。

監督は数多くのSF映画を撮ってきたスティーブン・スピルバーグ。なのだが、今作は『未知との遭遇』や『ET』とは異なり、宇宙人は完全なる敵として描かれている。子供への夢を与えるSF映画から、現実的な恐怖を思わせるような痛ましいスリラーへと舵を切り、突然の混乱と混沌、人類の醜さをも盛り込んだストーリーへと振り切れている。主演は珍しくダメな父親を演じているトム・クルーズ。あまり変わりないトムとは対照的に、当時絶頂期を迎えていたダコタ・ファニングの姿にはどうにも懐かしさを感じた。

〜あらすじ〜

クレーンの操縦士のレイ・フェリエは妻と離婚して一人暮らしだが二人の子供の父親であった。その日は子供達を預かるはずの日だったが、案の定レイは遅刻し、元妻や子供達から呆れられてしまう。息子のロビー、娘のレイチェル共に父親には決して懐いておらず、3人だけの白々しい時間が流れていた。
そんな折、空が稲光り、レイの家からそう遠くない場所に雷が落ちる。その瞬間から全ての電気機器や車などが使用不可となり、街は大混乱に陥った。が、その混乱はまだほんの序章だったのだ。雷の落ちた穴から巨大なマシーンがせり上がり、人間を次々とビーム光線で消し始めたのだ。野次馬しにきていたレイは一目散に逃げ出し、ロビーとレイと3人で街を脱出しようとするのだが・・。

〜見どころと感想〜

この映画はアメリカを襲った9.11のテロの影が色濃く刻印されている。原作はH・G・ウェルズによる同名小説から取られているが、スピルバーグはそこに9.11で傷ついたアメリカの姿を刻み付けることにしたようだ。だからこそ、人類は蹂躙されるだけで終わるわけにはいかず、後半に向けて反撃に転じる勇気ある姿を見せてくれる。

ただ描写としてはあまりにもその絶望のレベルは深く、とてもじゃないがハッピーエンドは想起できない展開。そこから何とかエンタメ作品にまで仕上げたスピルバーグの手腕は素晴らしく、例えば『ミスト』のような結末からは脱することができていた。

中盤ちょい役で登場してくるのはティム・ロビンスで、人間の一つの側面を体現する役柄としてインパクトを残している。他にも野次馬根性逞しい人々だったり、車を奪おうと暴徒と化す集団など、人類のパニック時の予行練習を行っているかのような容赦ない現実感が炸裂していたのも印象的だった。

宇宙戦争というタイトルは何か違うとは思うが、戦争のような凄惨なシーンの多い映画であり、予期せぬ災厄に見舞われた人類への一つのメッセージのような物語でもあった。

〜あとがき〜

どういうわけか評価の低い今作ですが、そんなに悪くはないと思っています。トム、ダコタ共に熱演し、恐怖を煽る描写も抜群。ラストは9.11との関連性を考えれば胸糞にするわけにはいかないので、あれしかなかったのではないでしょうか。

願わくば宇宙人が侵略してこない未来を祈りつつ、ウルトラマンの1エピソードのような物語はガチで映画にすると結構怖いんだなとしみじみ感じた作品でもありましたね。
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