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宇宙戦争のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

宇宙戦争(2005年製作の映画)
5.0
【スピルバーグ版『宇宙戦争』が市民目線の怪獣映画として完璧な理由とは?】
先日、《王様のブランチ》を観ていたら、視聴者が選ぶスピルバーグのベスト映画について放送されていた。案の定『ジュラシック・パーク』や『インディ・ジョーンズシリーズ』が上位を独占していたのですが、個人的にスピルバーグベスト1は『宇宙戦争』だと思っている。公開当時、あまりに呆気ないエンディングが賛否両論を巻き起こしたのですが、堅物映画雑誌カイエ・デュ・シネマが2000年代ベスト映画第8位に本作を選んでいました。当時は、『宇宙戦争』が何故大傑作なのかを言語化できなかったのですが、丁度映画飲み会でも最近『宇宙戦争』が話題にあがるので、ネタバレ考察記事を書いてみることにしました。尚、本作はバイロン・ハスキン版のネタバレも含むので要注意です。

--大分前の作品故マスキングしてません--

本作は、公開時から時が経ち、『クローバーフィールド/HAKAISHA』と同じく《市民目線の怪獣映画》としての立ち位置が認知されるようになった。一般人が目を覆うような大惨事に蹂躙される中、地を這うようにして逃げる。一般人故に、大惨事の全貌が見えない様をこのサブジャンルでは強調している。そして、本作が新鮮なのは、巨匠であるスピルバーグがそのお手本を披露したことにある。

市民目線の怪獣映画とは、低予算映画にとって好都合なシチュエーションである。撮影コストのかかるモンスターを描く手間が省けるからだ。古くは、『スティーブ・マックィーンの人喰いアメーバの恐怖』でこの手法が使われていた。巨大アメーバモンスターの侵略を描いた作品であるのだが、よく映画を観ると、アメーバの姿はあまり映し出されず、逃げ惑う市民の演技でもってフレームの外側にいるモンスターの恐怖を魅力的に醸し出している。

スピルバーグ程の巨匠であれば、全編宇宙人の蹂躙を魅せることは容易であったろうに、本作ではできるだけ宇宙人の乗る殺戮兵器トライポッドを画面に映さないようにしているのだ。しかも、本来怪獣映画では魅せ場として描かれる怪獣目線から都市を破壊する描写がほとんどない。逃げ惑う市民の目線を維持し続ける作品となっている。また、戦車や戦闘機が街中で激しく交戦を繰り広げているのだが、その先にいるはずのトライポッドが全然見えないのだ。

そして昨今、《ウイルスは差別しない》という理論が市民に流布しているが、ここでは《宇宙人は差別しない》という理論を徹底し、無慈悲に殺戮する。スピルバーグ作品といえば、一見子ども向け映画に見えて無慈悲な暴力描写を魅せることがある。例えば、『ジュラシック・パーク』ではトイレ中に恐竜に捕食される強烈なシーンが描かれていたりするのだ。本作は、その真骨頂を魅せつけている。


トライポッドによる最初の殺戮シーンを思い出していただきたい。
通りの中心に亀裂が入る。そこから地割れが発生し、建物が粉砕する。この粉砕の不気味な恐ろしさは、『キートンの蒸気船』やバラエティ番組のハプニング映像みたいに笑って済まされるレベルではありません。よく注目するとこの場面で教会が破壊されています。つまり、これから神や信仰すら捻り潰すホロコーストが行われることが宣言されているのだ。

警察官がどれだけ「離れてください」と言っても、野次馬根性で群がる人々。トム・クルーズ演じるレイ・フェリエもその中の一人だ。一人の男がビデオカメラを構える。その先には大きなマシンが轟音を響かせながら青白い光を溜めている。次の瞬間、ビデオカメラが落ちる。そのカメラの映像が捉えたのは、人々がレーザーで粉砕されていく姿だ。逃げ惑う人々、レーザーは次々と人々を粉にしていきます。ただ、当たり判定は狭いらしく、入射角の狭間をなんとかレイ・フェリエは掻い潜るのです。ただ急には止まれないので、目の前で粉になった人を貫通して逃げるのです。

さらにスピルバーグの拘りが感じ取れるのは、レーザーの特性。レーザー攻撃というと、通常は全てを焼き尽くすか粉砕するものなのですが、本作の場合、ガラスを貫通するのです。車に逃げ込む人をレーザーが降り注ぐのだが、フロントガラスを貫通して人を粉にし、そのまま車を横転させている。また、レイが建物の中に逃げ込むのだが、ガラスをレーザーが貫通して人を粉にしているのです。この演出は斬新かつ、より一層無慈悲な死を強調させるものとなります。


こうしてレイは情緒不安定な少女と極限状態によって宇宙人に好戦的な息子を抱え、街の脱出を試みる。車を盗むレイ。知り合いが全力で止める。

「死ぬぞ!」

と言いながら走り去るレイの背後で彼は粉にされる。ここからは、見えない存在との戦いとなってくる。なんと、彼が走る車の背後で建物が橋が、車がオモチャ箱をひっくり返したように吹き飛ばされているので、ここにはトライポッドは映っていないが、いかに彼らが恐ろしい存在かを説明するには十分な描写となっている。

そして、極限状態における命を優先するための一貫性のない行動が皮肉として描かれる。

彼らが車を走らせていると、人々が「乗せやがれ!」、「あと20人乗れる!」と罵声を浴びせながら攻撃してくる。なんとか強行突破するものの、赤子を抱いた女性を轢き殺しそうになり、ハンドル操作を滑らせ柱に激突する。そしてゾンビのように群がる人々との叩きの末に、敗北してしまう。銃を突きつけるゴロツキに車を奪われションボリダイナーに入る家族を余所に、レイが落とした銃を拾った別のゴロツキが車強盗を射殺する事件が発生する。極限状態によって人々が弱肉強食時代の本能の基行動していることが伺える素晴らしい殺戮をスピルバーグは披露しているのです。到底じゃないが子ども向けパニックアクションではありません。

さて、難民となり船着場にやってきたレイファミリーは、背後から迫り来るトライポッドに怯えながらなんとかして船に乗ろうとする。しかし、もう出発しないと全滅な状態故、船は乗船待ちの人を置いて出航しようとする。皮肉にもあれだけ人を乗せようとしなかった、レイが「あと5人ぐらい乗れるでしょ」とあの暴徒同様の懇願をし始めるのです。もはや大惨事において一貫性を保つことは不可能だ。そして、強引に船へ乗り込むレイファミリーが背後を振り向くと子連れの女性が立っている。

なんて意地悪な人の醜態表現でしょうか?


さて、1953年に製作されたバイロン・ハスキン版の『宇宙戦争』の最大の見所は小屋でのスリリングな未知との遭遇場面。あそこで初めて姿を表す、カラフル目玉の宇宙人の気持ち悪い造形は夢に出る程のトラウマものだ。残念ながらスピルバーグ版での宇宙人造形は、一般的な宇宙人造形でありインパクトにかける。しかしながら、強大な敵の襲来により、好戦意識が高まったおっさんを押さえ込みながら、偵察の目を回避していくシーンは魅力的が。

蛇のようにウネウネと動く偵察機、鏡を使ってやり過ごそうとするのだが、靴が目に映ってしまい、一気に形成が危うくなる。それをそろりそろりと目の裏側に回り込む所の鮮やかさ、そして目を破壊し、デロンデロンに故障しながら天に帰っていく姿の高揚感は素敵なものがあります。


コロナ禍に本作を観ると、興味深いことに気づきます。

本作における呆気ないエンディング、つまりあれだけ人類を蹂躙していた宇宙人が極小の微生物に敗北してしまうというエンディング。我々は人間目線で本作を楽しんでしまいますが、実は我々こそが宇宙人であり、自然のパワーには抗えない存在なのだ。新型コロナウイルスとい極小の存在によって、人々は身体的にも経済的にも精神的にも破壊された。と同時に、外を見渡すと経済活動停滞により空気が澄み始めているではありませんか。我々人間は、経済活動をする中で自然を蹂躙していたが、それはウイルスによってあっさりと終了を迎えたと考えると、このアイデアを考えたH・G・ウェルズはバケモノみたいな作家だなと思うのであります。

というわけでスティーヴン・スピルバーグの『宇宙戦争』がチェ・ブンブンのベストスピルバーグ映画です。

★ (おまけ)チェ・ブンブンのベストスピルバーグ映画


1.宇宙戦争(2005)
2.レディ・プレイヤー1(2018)
3.激突!(1971)
4.インディ・ジョーンズ/最後の聖戦(1989)
5.ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2017)
6.マイノリティ・リポート(2002)
7.キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2002)
8.ジュラシック・パーク(1993)
9.ターミナル(2004)
10.シンドラーのリスト(1993)
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