うめまつ

細い目のうめまつのレビュー・感想・評価

細い目(2004年製作の映画)
4.4
こんなまごうことなきピュアネスを目の当たりにしたのは何年振りだろうか?雪にかけるイチゴシロップのような、ソーダ水を泳ぐ宝石のような、闇夜に吹く潮風のような鮮やかさで胸に飛び込んできた運命の恋。好きな人が好きなものを好きになりたい、好きな人が嫌いなものを嫌いでいたい、あの真っ白な気持ちの尊さよ。好きな子の好きな花を探すために町中を駆け回る男の子のこと、どうしたって嫌いになんてなれないよ。そりゃあ金城武より輝いて見えちゃうよね。武のことは安心して私に任せてオーキッド!

基本は若い2人のラブストーリーだけど、家族の描写が多いのも嬉しい。あの世界で一番可愛いトドみたいなお父さんは出てくるだけで嬉しいし、お母さんと布一枚で踊る謎シーンも大好きだし、大きくてふかふかで体も心も肉厚なお手伝いさんに私もギュムっと包まれたい。誰に対しても平等で真っ直ぐなヒロインのキャラクターを裏付けるのに完璧な家族の風景。後半の車内の長回しシーン、オーキッドの黒髪の滑らかさや、汗ばんだ手の平の熱や、頰を濡らす涙の味がわかるくらい目の前で起きてた。涙を拭いてあげられないことがじれったいくらい、スクリーンの中が手を伸ばせば届きそうなほど近かった。ほんの2時間前まで顔も名前も知らない人達だったのに、いつの間にか気持ちは家族の一員だった。

ヤスミン監督は宇宙飛行士みたいに地球を俯瞰で見てるんだろうな。そこは国境や人種の隔たりや神様の優劣がない世界。その曇りのないビジョンをフィルムに焼き付けて私達に残してくれた。一人一人が彼女と同じ目線を持てれば、眩しいほど優しさに満ちた世界が出現して、きっと誰もがその目を細めずにはいられないはずだ。
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