Haco

細い目のHacoのネタバレレビュー・内容・結末

細い目(2004年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


想いはとどく。

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 夏のヤスミン特集で思わずリピートしてしまったこの作品。10月11日(金)よりアップリンク吉祥寺・渋谷ほか全国で順次公開です!わーい。上映決まった時は叫びました()
 正直このチラシの書き方なら、オーキッドの未来を描いた『グブラ』まではやって欲しいな〜〜(涙)って思ってしまいますが、今から楽しみ、楽しみ。

 香港の映画スター(金城武)が大好きなマレー系の少女オーキッドは、露店で海賊版の香港映画ビデオを売る中国系の少年ジェイソンと出会い、瞬く間に恋に落ちる。民族や宗教が異なろうとも、彼らの家族は二人の恋を理解し、支えていくが……。

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 ヤスミン監督は「優しいまなざし」って言葉が似合ったりするから、「ずっとパステル調!」みたいな映画を想像する方もいるかもしれませんが……。
 監督の映画は、うっとりするような出来事や日々の風景があって、そして、でも。必ずといっていいほどその隣に、誰かを傷つけたり傷つけられたり、目を背けたくなるような事も起こる。その両方の面を、きちんと描いている。

 そして、“その上で”なんです。
 監督の映画は“その上で”、文化や人種だってフラットになってもいいはずだと、「誰かに想いがとどく瞬間」や「誰かと心が通じ合う瞬間」を信じている。そんな瞬間を、思い描く。
 もちろん映画だからフィクションだし、現実はこんな風じゃないのかもしれないけど、ヤスミンの映画を観たあとだからこそできる現実の見え方だって、あるんだと思います。

 ラブストーリーの側面で観ても、個人的には『あの頃、君を追いかけた』並みに泣きました。ボロボロになりそうな時に頭を支えて優しく包み込んでくれる父や母のこと。思い出すだけで、涙が出そうになる。



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以下、作品の展開や結末には触れないのでネタバレではありませんが、(大好きすぎて)作品の相当なディテールに触れます!
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 『タレンタイム』ではドビュッシーの「月の光」、『ムクシン』だとシューマンの「愛の夢」等、ヤスミン映画で出てくるクラシック音楽たち。個人的にですがこの『細い目』では、ドヴォルザークの《ルサルカ》「月に寄せる歌」が最高でした。

 もともと、ヨーヨー・マによるチェロとオーケストラ編曲のバージョン*1が大好きだったのですが、オペラだったことをやっと知り()、日本語訳の歌詞まで知ってみると心がぎゅっとなりました。
水の精が恋をした人間の王子を思う場面のこの曲が、マレー系の少女と中華系の少年の恋物語を彩る。

 オペラ対訳プロジェクト*2 より、対訳の一部を抜粋します。

「月よ…しばらくそこにいて!
教えて!いとしい人はどこ?

伝えて…銀のお月さま。
伝えて…あたしはあの人をいつもこの手に抱きしめてるわ。
たとえ、つかの間だとしても、
あたしの夢を見るように。
照らして…彼方のあの人に。
伝えて!ここで待ってると!……」

 映画のほんのほんの一部のディテールなのですが、オーキッドの想いが溢れに溢れるシーンで、この曲が聞けたこと。
ヤスミン監督、大好きです。一年に一回どこかでヤスミン特集やって欲しい()

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#ハコ的名セリフ → 「不思議ね。文化も言葉も違うのに、心の中が伝わってくる」

#ハコ的名セリフ → 「ジェイソンはAが7つもあるのに」…これ最高です。ヤムさんの存在。
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