TaiRa

失われた週末のTaiRaのレビュー・感想・評価

失われた週末(1945年製作の映画)
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依存症映画の名作ですね。酒は飲んでも飲まれるな。お酒は怖いぞ。

作家志望のプータロー33歳アル中が、金も酒もない週末を乗り切れるかという話。禁断症状に苦しむアル中を第三者の視点で見せるのではなく、観客にアル中を体験させる様な作り。酒が切れてどんどんヤバくなっていく精神状態に観客も巻き込まれる。酒代が払えず盗みに手を染める瞬間のハラハラドキドキを、末期症状で見始めるおぞましい幻覚を、主人公と一緒に体験して行く。彼を依存症に追い込む精神的な問題がまた切実で。「大学じゃ天才って言われてた。俺の人生、19歳がピークだ」彼はなりたい自分になれなかった事で闇に落ちている。この映画、数ある「作家の書いた物語の映画」の中でも特に優れている。恋人のお陰で再び夢に向かっていく彼が語る小説のアイディアは、まさにこの映画の内容そのもので、始まりと終わりが非常に美しい円環構造となる。この構造自体はよくあるが、映像的にも徹底したものは多くないと思う。見所を挙げるとやはり撮影か。さすがノワールも手掛ける監督、光と影のおどろおどろしさが良いし、テルミン使った特徴的な音楽も相まってホラーのような印象。飲んだ酒の数を表すグラスの跡の演出や、空の酒瓶2本から数滴こぼれる酒のアップなど、あらゆる画面がスマート。隠していた酒を発見する瞬間のあの酒の影、まぁ怖いね。厚生施設のホラーっぷりも凄い。看護師の説明が恐怖そのもの。酒でボロボロのドロドロになった主人公が自殺の決意をした翌日、やたらシャキッとしてるのが妙に生々しくて一番怖かった。
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