デニロ

噛む女のデニロのレビュー・感想・評価

噛む女(1988年製作の映画)
4.0
1988年製作公開。原作結城昌治。脚本荒井晴彦。監督神代辰巳。ロッポニカ。春夏秋冬。

わたしが所帯を持った年。自己決定権が失われた年。映画を観に行くのもままならぬのだ、とそんなことに気付いた年。夏、ソウルオリンピック。秋、昭和天皇吐血、下血。毎夕、天皇の下血量が報告されていた。今の新型コロナ感染者数発表とおんなじだ。

夫婦のその後の話。

わたしの周りには、アダルトビデオの制作者もいないしテレビ局に勤務している者もいない。だから、こんなに気まま勝手に生きている人間を知らない。モノを売り買いしているサラリーマンのお遊びの実相など、たかが知れている。

永島敏行の語る夫婦感が今になって合点がいき、桃井かおりの夫永島敏行に対する鷹揚な態度にも合点がいく。傍目にはどう見られているのか分からぬが、当事者同士にはその破綻がわかり過ぎるくらいに分かるのだ。これは、作者たちの男と女の関係論なのだろうと思う。それを背景にサスペンスを組み立てる。桃井かおりの感情を徐々に描き分けていくことで、何かが進行していると観客に示しているのだが、これがなかなかにちょっとした日常の風景なので、あな、恐ろしや、と思わせていきます。

序盤はオーソドックスな演出で、中盤からカメラワークの演出が加わり、終盤は神代辰巳らしい役者の動かし方になっていきます。テレビのサスペンス劇場なら崖の上でする犯人告白の場面がそれで、桃井かおりと余貴美子が戯れながらそのあらましを話し合います。実は、この辺りでわたしは脱力してしまうのですが。それまで何でもなかったこどもの玩具が実は、というのはなかなか面白かったけれど。

永島敏行が観ていた映画『恋人たちは濡れた』『晩春』『執炎』、また観ようかな。あ、デモの記録フィルムはいつのものだかわかりません。

神保町シアター 生誕90年 藤田敏八 神代辰巳と藤田敏八 にて
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