マリオン

007 スカイフォールのマリオンのネタバレレビュー・内容・結末

007 スカイフォール(2012年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

MI6の凄腕エージェントとして活躍し続けるジェームズ・ボンドが、彼の上司であるMに因縁を持ち続け、彼女をつけ狙う謎の男シルヴァによるサイバーテロ事件を追いかけるうちに、彼自身とMの過去へと通じるかつてない危機に直面する007シリーズ第23作。新たに培った現代らしいハードボイルドなテイストと伝統的な007シリーズらしさを受け継いで新たな007映画へと進化していく様は美しく、自らのルーツを遡って全てを否定されてもゆるぎない自分自身という象徴にこだわり続けるジェームズ・ボンドやM、MI6の存在がイギリスの高潔さの復活を見せつける傑作だ。

今作においてジェームズ・ボンドと上司のM、ひいてはMI6に最大の危機が訪れることとなる。ジェームズ・ボンドはMI6エージェントのイヴと共にテロ組織に潜入中のNATO工作員の名簿データが入っているハードディスクを奪った謎の傭兵を捕まえるためにトルコで壮絶な追跡劇を繰り広げる。だが謎の傭兵とボンドが列車上で格闘中に、謎の傭兵を狙ったイヴの銃弾がボンドを誤射してしまい、ボンドが崖下に落下してしまい行方不明となる。そして数か月後、MI6はジェームズ・ボンドを死亡とすることを宣言する。一方、Mは今回の任務失敗を受けて責任問題に問われて、情報国防委員会のギャレス・マロリーから引退を勧められる。Mは現在も事態が悪化しているのに途中で投げ出すことはできないとマロリーの提案を退けるのだが、その直後にMのパソコンがハッキングされてMI6本部が爆破されてしまい、奪われたNATO工作員名簿の情報を週に5人ずつネットにばら撒かれてしまう。MI6本部爆破事件を受けて僻地で負傷の傷を癒していたボンドはMの前に現れて復職を宣言し、Mはボンドにパトリスが潜んでいる上海に向かうように指令を出す…ボンドには復職の条件である体力テスト、能力テスト、心理カウンセリングの全てにおいて現場復帰不可の判定が下されているにも関わらず…。

そしてボンドは上海でパトリスを倒し、マカオのカジノで事件の秘密を握っていると思しき謎の女セヴリンを通じて、今回の敵である謎の男シルヴァと出会うこととなる。シルヴァという男はかつてMのもとで働く工作員だったものの、国家間の協定を超えた暴走行為に走り、取引で敵国に引き渡されて拷問を受けたという過去からMに逆恨みし、また一種の母と息子の愛情にも似た執着心を見せる…いわば立場や運命を狂わされたもう一人のジェームズ・ボンドであり、Mのもう一人の息子だ。そうしてボンドとMはシルヴァという自分の影、過去の亡霊ともいえる敵によって自分自身の存在意義を否定され、窮地に立たされていく。ボンドはシルヴァがハッキングした情報によって自分が現場復帰不可の烙印を押されていること、それを知っていながらMは自分を派遣したことを知らされ、Mは前述したマロリーによる引退提案、そして野党からの証人喚問によって「MI6は過去のスパイ合戦の遺物、時代に取り残された時代遅れの組織」とMI6=Mの存在を一蹴してしまう。だがボンドは現場復帰不可の烙印が押されていることを知っても、自分の信じる信念を体現するMとイギリスへの忠誠が揺らぐことなくシルヴァが仕掛けた事件を解決しようとするし、Mは野党の証人喚問で「かつて天と地を動かしたあの強さを我々は失った。だが英雄的な心は今も変わらずに持っている。時代と運命に翻弄され弱くはなったが意志は強く、戦い、求め、見いだし屈服することはない」とテニスンの詩を引用し、我々がどんなに不要だと思われていても存在し続ける理由があると宣言する。そして彼らは自らの信念を胸に全てをはぎ取って、どんどん自分達の原点とも呼べる場所へとさかのぼり続ける。

そんなボンドとMはシルヴァとの最終決戦の地にボンドが生まれ育ち、彼にあるトラウマを植えつけたスコットランドの自然にたった1軒そびえたつ古びた屋敷「スカイフォール」を選び、全てを否定されても残る自分たらしめる意志、信念、存在だけを武器に襲い掛かるシルヴァとその刺客達に挑む。ボンドとMが乗っていたアストンマーティンDB5も爆破され、スカイフォールの屋敷も焼け落ちるほどの激しい戦いを経て、最後にシルヴァはMにその異常な偏愛や悲しみをぶつけるものの、ボンドが投げたナイフによって絶命する。だがMも総力戦で負った傷によりボンドの腕の中で最後の力を振り絞り「私は1つだけ正しかった」と告げ静かに命を落とすこととなる。ボンドは静かに彼女の死に涙を流し、最後にはいつもMのデスクに飾ってあったユニオン・ジャックのブルドックの置物=イギリスの象徴を託される。どんなに否定されようとも、自分自身とイギリスに忠誠を捧げ続けたMの魂を受け継ぎ、ジェームズ・ボンドもまた自分自身であり続け、イギリスに忠誠を捧げ続ける…ボンドの生家スカイフォールという名前に込められた「たとえ天が墜ちるとも正義は為されるべし」というラテン語の引用も相まって、全てを失っても蘇り続ける信念とアイデンティティに胸を熱くする。そしてその物語がジェームズ・ボンドという長きに渡って愛されてきたキャラクターだけでなく、これまでに様々な試行錯誤とともに現在まで大人気シリーズであり続けた007シリーズの歴史、古き良きイギリスの歴史にも深く関わってくるのが、007シリーズとイギリスに向けられた惜しみない敬意と尊敬そのものだろう。

また今作は過去から培われた歴史を称えつつ、「カジノ・ロワイヤル」や「慰めの報酬」で新たに描かれたジェームズ・ボンド像を踏まえながら、かつての007らしいエレガントさ、上品さ、お決まりを取り入れて新たなスタートを切るという離れ業をやってのける。ダニエル・クレイグ版007シリーズに登場してこなかった武器開発係Qの登場や、「ゴールドフィンガー」でも登場したアストンマーティンDB5、ボンドが肉体的にも精神的にも「二度死ぬ」という展開、ボンドの悪女なボンドガールとの熱い情事、「ボンドだ、ジェームズ・ボンド」という自己紹介などシリーズへのオマージュや今まで入れることが出来なかったお決まりに始まり、荒々しいハードボイルドさが印象的だったジェームズ・ボンドというキャラクターも、どんなに危機的な状況でもカフスを直すなど仕草はいつも気品に溢れていて、皮肉や冗談を言って余裕を気取るなど往年のシリーズにあったエレガントさや上品さを取り入れる。そして一旦は否定されたジェームズ・ボンド=007シリーズという歴史を称えた後には、イヴがミス・マニーペニーに、マロリーがMのポジションを受け継ぎ、ボンドが次の任務を受け取るという最高のスタートで幕が閉じる…こんな最高なスタートがかつてあっただろうかと思うほどに素晴らしいラストではないだろうか。

そしてサム・メンデスのこだわりによるきっちり作りこまれた世界観や演出は過去の栄光をきちんと称え、史上最も美しい007映画として君臨する。ボンドやMに昔ながらのカミソリや、イギリスを象徴するユニオン・ジャックのブルドックの置物を印象的なモチーフとして使用し、昔ながらの物への普遍的なこだわりというものを体現させる手法や、ロジャー・ディーキンスの撮影による左右対称に均等な画作り、光と影を際立たせる照明、場面によって整えられた色合いが美しいハーモニーを生み出すショットの数々に惚れ惚れしてしまう。例えば激しいアクションの応酬を見せるトルコでのカーチェイスや、美しい青のネオンが印象的な上海、そのネオンによって生み出された影だけで魅せるアクションと秘密を握るセヴリンとの出会い、エレガントに温かみのある色で整えられたマカオのカジノ、セヴリンの船に乗って荒廃した島に向かう場面のかっこよさと不吉さ、荒廃した廃墟とシルヴァが根城にする建物が放つ死の香り、冷たく突きつけるスコットランドの自然、燃えるスカイフォールをバックにMに近づいていくシルヴァの影…美しいショットの数々が目に浮かぶ。

極め付けはオープニングクレジットだ。まずアデルが歌う主題歌「Skyfall」にはダニエル・クレイグ版007前2作の主題歌に足らなかった濃厚なエロさ、どこか勇ましくもあり切ない哀愁も漂う大人な雰囲気を醸し出し、ジェームズ・ボンドのテーマのモチーフが時折顔を出すという最高の主題歌だ。そんな最高の主題歌にのせて描かれるダニエル・クラインマンのオープニングには物語のモチーフやあらすじがそれとなく示され、毒々しい赤い色や黒をモチーフに墓、銃、髑髏など不吉な予感を孕んだ死の匂いを充満させ、美しい青をモチーフに美女の肉体がこれでもかと使用され官能的で大人な雰囲気を醸し出す…見た当時、こんなに完璧なオープニングを初めて見たと思ったほどに美しいオープニングクレジットだ。またトーマス・ニューマンのスコアもどの映画よりも緻密に計算され、演出で印象付けたい部分に一瞬目立つような音が聞こえたり、ジェームズ・ボンドがかっこいいところや感情の変化の部分ではお馴染みのメロディが流れるなどニクイ演出が多い。デヴィッド・アーノルドによるスコアと比べると1曲あたりのインパクトには欠けるものの、美しさを追求した結果の緻密さ故だし、主題歌のメロディを流すことで映画としてのまとまりを高めるというこだわりも生かされている。とても素晴らしい職人技だろう。

役者陣では「カジノ・ロワイヤル」以降、ハードボイルドでシリアスなジェームズ・ボンドを演じてきたダニエル・クレイグがとうとう往年のシリーズのようなエレガントさや上品さも自分の物にしてきたことがなにより素晴らしいだろう。また今作におけるボンドガールという活躍の場を与えられたM役のジュディ・デンチはいつもの強くて威厳のある風格だけでなく、どこか老いを感じる弱々しさや母親のような安心感を見せる。そしてシルヴァ役のハビエル・バルデムはかつてないほどにアクの強い過剰な演技が印象的で、狂気に満ちた偏愛で暴走する姿がどこかおぞましく、そしてもの悲しさを感じさせる。他にもマロリー役レイフ・ファインズはピンと背筋が伸び、新たなMとして威厳溢れる素質を感じさせ、Q役のベン・ウィショーは全メガネ男子&メガネ男子好き必見の知的でクールな姿で我々を魅了し、イヴ・マニーペニー役のナオミ・ハリスはダニエル・クレイグと共に大人なやりとりを見せ、セヴリン役のベレニス・マーロウも妖艶な色気を振りまく。あと前作「慰めの報酬」からMの側近として活躍していたロリー・キニア演じるビル・タナーの出番は増えていたことも個人的は嬉しいポイントだし、スカイフォールの番人キンケイド役のアルバート・フィニーの渋い演技も見逃せない。

どんなに時代が移り変わり、時代遅れと罵られようとも誇りある007シリーズのアイデンティティと魅力にきちんと敬意を持って忠実にあり続け、新たなスタートを華々しく切るそのかっこよさに痺れると同時に、美しくてエレガントなかっこよさ、匂い立つ危険な香りとエロティシズムこそが007シリーズなのだと改めて感じさせてくれる傑作だ。最後に今作で引退となるジュディ・デンチ演じるMに最大級の賛辞を送りたい。

~何度でも蘇り続ける007シリーズへの賛辞と新たな時代への幕開け~「007 スカイフォール」ネタバレレビューhttp://marion-eigazuke.hatenablog.com/entry/2015/11/11/195400