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初春狸御殿のtjZeroのレビュー・感想・評価

初春狸御殿(1959年製作の映画)
3.6
山奥の洞窟に暮らすタヌキの父娘が、ひょんなことから姫の御殿にまぎれ込んだことから起こる珍騒動。

歌あり、踊りあり、合い間にお芝居が挟まる宝塚のレビューみたいな形式の作品。

”カチカチ山”や”証城寺(しょうじょうじ)の狸囃子”なんかをタヌキ汁みたいにごった煮にした物語で、セリフにも「狸寝入り」とか「捕らぬ狸の皮算用」なんかのフレーズがポンポン出てきて、まさにタヌキのフルコース。

普段はシリアス路線の市川雷蔵サンも、ここではニコニコと白い歯を見せて軽やかに舞う。

元々歌舞伎役者だから当然なのかもしれないけど、その姿勢…手から足の指の先まで神経が行き届いたようなきれいな踊り。当時の観客は、歌舞伎座の高い切符を買わずとも、気軽にスクリーンでこの至芸を堪能したことでしょう。

”あやや”こと若尾文子サンも、可憐な山娘と高貴な姫君の二役を華麗に演じ分けて魅力が二倍。七変化であでやかな着物を十分おき位に召し替えてくれるのも眼福。

彼女たち歌舞伎以外の役者さんたちも、みな歌も踊りも達者。
現代の俳優さんだと「ずいぶん映画のために稽古したんだろうなあ」とかうががえちゃうけど、本作の場合、そんな野暮な感想はみじんも浮かばない。
みんな、ごく自然に、なんでもない顔して舞ってます。フツーに巧い…ってなんて豊かなんだろう。

公開時を調べたら、1960年のお正月映画。
当方は観る季節ちょっと遅れちゃったけど、お花見のほろ酔い気分で楽しむのにもふさわしい、かわいい作品でした。
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