Jeffrey

スイート・スイート・ビレッジのJeffreyのレビュー・感想・評価

3.5
「スイート・スイート・ビレッジ」

冒頭、チェコの閉鎖的な田舎町クシェチョヴィツェ。知的障碍の若者、どこまでも続く田園風景、トラブル、凸凹コンビ、 プラハの林鉱公団、集団農場事務所、喧嘩、相方。今、2人の奇想天外な日常が始まる…本作はイルジー・メンツェルが1985年に監督したチェコの片田舎の小さな村を舞台に、凸凹コンビが繰り広げるユーモラスを映した喜劇で、この度、チェコ映画特集をYouTubeでやることになったため、BDにて再鑑賞したが個人的には好きな映画である。この作品に対しては毛嫌いする人もいるのだが…本作はモントリオール国際映画祭審査員特別賞を始め、オーリアック国際映画祭、シャムルックス国際映画祭などで絶賛され賞をいくつか手にしている。

わが国日本でも爆発的にヒットした「コーリャ/愛のプラハ」や「ダーク・ブルー」を手がけたヤン・スヴェラークの父のズデニェクが原案と脚本を執筆しているとのことだ。多分、メンツェルの「厳重に監視された列車」以降のチェコ映画としてアカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞したのはヤンのコーリャくらいだろう…。ちょうど同時期の85年に米国で監督したチェコ監督のミロス・フォアマンの「アマデウス」もオスカーを受賞しているが、これはチェコ映画としてではなく、アメリカ映画としての受賞なので外国語映画賞とはまた異なる(彼が受賞したのは作品賞ではなく監督賞だったような気がする)。ちなみにアマデウスの10年前に監督した「 カッコーの巣の上で」も同じくオスカーを受賞している。



さて、物語は春のチェコの小さな村。南に位置するクシェチョヴィツェ村。朝、農場の運転手でふとっちょのパヴェクとノッポの助手オチクはいつものようにトラックに乗り込み出勤する。パヴェクは知的障害を抱えた孤独なオチクの父親代わりを務めている。村の医者ドクトルは、今日も風景に気を取られ車で木に激突。そんな毎朝の風景がこの映像でうつされる。しかし、オチクのおっちょこちょいでパヴェクはトラックで別荘族の家の門柱を破壊してしまった。我慢の限界に来たパヴェクはコンビ解消宣言するのだが…。

本作は冒頭に、朝早い町の空気が写し出される。小太りで身長の低いちょび髭のおっさんがカバンを持って口笛を吹き合図をする。そうすると身長の高いのっぽの青年が家の扉から出てくる。2人は同じタイミングで道路を歩く(この時、鶏の鳴き声が聞こえている)。そしてドクトルと言う男性の車が発進しないのを見かねて、低身長のパヴェクが見てあげる。ノッポの名前はオチク。修理をしている間に、オチクは犬と戯れる。車は治ったようでその場から立ち去る。カットは変わり、青いトラックがカーブを曲がるシーンへと変わる。運転しているのはパヴェク。助手席にいるのは相方のオチク。どうやらオチクには知的障害があるご様子だ。2人は車の中で会話をする。カメラはどこまでも続く田園風景を捉える。

カットは変わり、先ほど車を直してもらったドクトルが道路を運転している場面へと変わる。運転の荒い車に少しばかりイライラしているようだ。カットは変わり、パヴェクの車内へ。パヴェクはオチクにヘッドホンを与える。彼はそれを耳にはめて音楽を聴き笑顔になる。カメラは彼のクローズアップを車の鏡越しにとらえる。カットはまた先程のドクトルの車内の中へ。彼は美しい街をポエム的に独り言で話している。パヴェクがトラックの中から女性と会話をする。そして目的地(職場)にやってきた2人は作業をし始める。

この日も、オチクはトラックに寝そべってブルドーザーの落とした砂の下敷になって危うく死にかける。パヴェクはそれが砂じゃなくて石の塊だったらお前は死んでいたぞとと呆れながら言う。それでも彼はニコニコしている。また、トラックのバックを誘導している最中にわき見をして、プラハから来た別荘族の家の門柱を壊す。これに激怒したパヴェクは、集団農場事務所に駆け込み、もうオチクの面倒をみるのはごめんだと言う…。続いて、オチクの家にいつも世話をやいてくれるおばさんがやって来てパヴェクに迷惑ばかりかけていると、乱暴者のトゥレクの助手にされてしまうよと忠告する。

パヴェクに嫌われ、厄介者にされてしまうのを恐れたオチクは懸命にパヴェクの機嫌をとりなそうとするが、どーも不運が重なり、ドジが増えるばかりだ。そんなある日、プラハの林鉱公団からオチクを採用したいという手紙が届く。あのオチクを?まじか…まさかと本気にしないパヴェク。知的障害のオチクに、都会生活ができるはずもないしなと…思う。一方その頃、オチクの家でオトゥクの女房ヤナと不倫をしている獣医研修生カシュパルが捉えられる…と簡単に説明するとこんな感じで、知的障害ではいるものの天使の心をもつ青年を軸に、彼の家を欲しがる都会の官僚と彼を見守る村人達の騒動をチェコの片田舎を舞台に、ユーモラスに描いた作品で、メンツェルの群像劇スタイルで複数の話を周期的に取り入れた日常交差を描いた喜劇映画である。「火葬人」のフルチーンスキーが医者役で出演しているのだが、やはりあのビジュアルインパクトは変わらないままだ。

ほとんど口が聞けないオチク役を演じたのはハンガリー人俳優のヤーノシュ・バーンで彼にとってはチェコ語なんてわからないだろうし、ほとんど喋らなくていい役は好都合だったと感じ取れる(どうでも良い話)。相変わらずメンツェルの作品はビロード革命前のあらゆる歴史と個人的な歴史観のごちゃまぜを薄っすらと要素として入れているなと感じる。この高身長の無口なオチクが子供たちと映画を見るシーンがあるのだが、そこに上映されているチェコアニメーション作家のポヤルのストップモーション作品の「ぼくらと遊ぼう」の話で、ぬいぐるみの大きなクマと小さなクマがまるで主人公2人の凸凹コンビの身長差を表している様で可愛らしくハッとした。なるほどね…と。

オチクが親切心から食事のテーブルに置いてあった塩を彼のスープに振りかけようとしたら、その前にいる男の人が悪戯で塩のキャップを緩めておいて、それを知らずに降りかけた瞬間にスープに塩が全て入ってしまった時のパヴェクの顔がウケるし、家族でディナーを静かに楽しみたいのに、墓場の近くの家にもかかわらず讃美歌がひたすら流れてうんざりする場面も面白い。こう見るとメンツェルの作品ってぶっきらぼうな可愛い男が出てくるな…厳重に監視された列車、 英国王給仕人に乾杯など…。他にも尿瓶で飲み物を飲んでしまったりジワジワとくる。最後に、メンツェルの映画はこの作品が日本で初めて公開された映画になるそうだ。
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