垂直落下式サミング

パラダイス・アレイの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

パラダイス・アレイ(1978年製作の映画)
4.8
野心家の兄弟がまとまった金を手に入れるために、力持ちの弟をドル箱スタープロレスラーに仕立てようとする。スタローンが監督・脚本・製作まで兼ねた渾身の傑作。しかも主題歌まで歌っちゃった超俺映画である。
今回のスタローンは三人兄弟の真ん中で、お調子者のチンピラだが心根は優しい人情家を好演。賭け試合のシーンが映画の見せ場であり、アーマンド・アサンテ演じる長男とともにセコンドをつとめ、長男次男がリングサイドからひたすら弟を応援する。声援に応えるかのように弟は連戦連勝。ぶつかり合う肉体を映し出すカラフルに切り替わる彩り豊かな照明が水しぶきに映える。
後半では、兄と立場が反転し弟の身を案じるようになるスタローンだが、「言い出しっぺじゃないか」と言われて言葉を詰まらせる。金はほしいし、兄弟も大事。この割り切れなさが実にいい。
テリーファンクをはじめ、『プロレススーパースター列伝』でお馴染みの往年のレスラーも多数出演。吹き替え版では三男の声を初代タイガーマスク(佐山聡)が担当。敵レスラーを演じるテリーファンクの電話帳破りパフォーマンスは、物語上の役柄と同じくギャングの用心棒から腕っぷしひとつでスターへと成り上がった名選手“生傷男”ディック・ザ・ブルーザーを彷彿させる。
Too close to paradise and too close to hell.
And sometimes the difference is too hard to tell.
この主題歌の歌詞は、アメリカンドリームをつかんだ男がみた一時の夢の世界と、それがすぐにその手をすり抜け過ぎ去ってしまうかもしれない不安を表しているのかもしれない。