yawara

ニュー・シネマ・パラダイスのyawaraのレビュー・感想・評価

5.0
都会で忙しく暮らす男が故郷からとある知人の訃報を受け、彼との思い出に耽る。

映画を通して多くの時間を共有した彼らには、友情という言葉では言い表せない深い絆があるように思う。小言を言えば、弱音も吐き、時として深淵な教訓を与えてくれる。友人とも上司とも、父親とも呼べない特別な関係だ。その絆の形成を豊かに、ドラマチックに描いている。

トトはアルフレードの仕事に携わることで、それまで見えなかった映画の別の側面を知る。そのはじまりは些細なこと。秘密基地のような楽しみと、映画への無邪気な憧れだ。映画への興味を持続し得たのは、彼をけして邪魔者としては扱わなかったアルフレードのおかげだろう。共に過ごした多くの出来事から、トトは映写技師としての技術だけでなく、人として大事なことも学んでひとりの映画人として成長していく。彼が観客を楽しませることを心に刻み、映画を制作するスタンスへと切り替えていくのは実に感慨深い。アルフレードはトトを束縛したくはないと都会へ送り出すが、これが今生の別れとなってしまうのが皮肉。愛する者を突き放す矛盾はとても切ない。

葬儀から結末に至るまで、作品中の伏線がエモーショナルに収束していく様はまさに圧巻。ラストシーンは万感の思いでスクリーンを眺めるトトの表情が素晴らしく、言葉にならない感動が押し寄せる。フィルムはアルフレードとの絆の象徴といえるし、またキスシーンは愛情のメタファーだ。多くの思い出を胸に、トトは心を新たにして日常へと戻っていくのだろう。
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