次男

ビフォア・サンセットの次男のレビュー・感想・評価

ビフォア・サンセット(2004年製作の映画)
4.3
このラストの映像、けっこう一生忘れないかもしれない。それは言い過ぎかもしれないけど。こんなにデリケートなニュアンスを、こんなに説明しないで、これだけ伝えられてるということが、なんか奇跡みたいじゃんって。笑いながらゆるやかに踊る彼女と、それを見ている彼のカットバックそれ自体を、真空パックして保存しておきたい。

◆◆

9年前のあの物語が「運命」とか「ロマンス」だとするなら、9年後のこの物語「現実」、というか「嘘と本心」だと思ったりする。

9年ぶりに再会した彼らは、相変わらず他愛もない話をするのだけど、ほぼ同い年の僕はけっこう猜疑心たっぷりに、というか同族嫌悪的に見つめてしまって、平たくいうと、彼と彼女の言葉のほとんどを、あんま信じてない。

・寄せた嘘。
あの日のことは本当にそんなに強く残ってた?本当に美しく思い出深く、胸を苦しめ続けていた?セックス二回って、話してる最中に思い出したんじゃない?ウィーンにも本当に行ったの?果たして本当に家庭はうまくいっていないの?悲観するほど人生はダメだと思ってる?全部が全部、じゃないにしてもさ、2とか3だったものを8くらいに話したりしてるんじゃない?ふたりの間柄を強調するために、もしくはある種の下心のために。

・冷静な相性診断。
9年前、この人のなにがあんなに好きだったんだっけ?この人、こんな感じだっけ?なんかちょっと違う気もするかもなー。うわーすげえヒスってるやん。私の活動に理解ないわあ。一緒に住んだら喧嘩とかしそうだなあ。離れた時間で、合わないふたりになったのかも。てかあの一晩だけしか知らないし、そもそも別にそんなに合ってなかったのかも。そんな現実的で冷静な相性検査も並行して行って、だってもう32、文化と好みも確立しつつあるし。


そんなふたりを突き動かすのは、直情的な下心と、9年ぶりに箱を開けたい好奇心。それも別に本心だし。もはや、「本物とか偽物とかがある」なんてことすらお伽話に思えるような年の頃。単純な二元論じゃねえんだなあっつって。グレーゾーンは超広いのです。

◆◆

ニーナ・シモンの物真似を始めたセリーヌ観て、僕は「やべえ」って思った。すっかりジェシーで観てたから、やべえってなった。嘘とか、ネガティヴな相性診断なんかをぶっ飛ばして、なんかこう、惚れた。圧倒的魅力。そして、彼女の部屋で、彼女の淹れたお茶を飲んで、愛らしく鼻歌を歌いながら踊る彼女。たどり着かなかった未来の可能性を感じずにはいられない、口八丁で話したものの現実には別に掴みにいかないと思ってた未来、がつんと好きを思い出した感じ。なんかやべえ。って思ってたら、彼女が聞く、「ベイビー、飛行機に乗り遅れるわよ」、辛うじて口をついたのは、「わかってる」、わかってる、そろそろやべえよね。

◆◆

我が選択肢のことも思い出さずにはいられないっすよね。悶々!!大人〜〜!!大人の醍醐味〜〜!!
次男

次男