和桜

さよなら子供たちの和桜のレビュー・感想・評価

さよなら子供たち(1987年製作の映画)
4.2
「僕はあの一月の出来事を一生忘れない」
1944年ナチス・ドイツ占領下のフランスで少年時代を過ごしたルイ・マル監督の自伝映画。
史実としての戦争映画を見る際、観る側としての自分たちは不条理な現実を見せられるわけだけど、この映画はそんな不条理な現実を見ていることしか出来ない子供達を映す。それは観ていることしか出来ない私たちの姿であり、決定的に違うのは彼らは少年時代の実体験としてその恐怖や後悔が残り続ける。
当時の体験や抱いた感情が子供たちに与えた影響は、この出来事で監督になる決意をしながら、晩年になるまで向き合えなかったマル監督の葛藤から伝わってくる。
「これを撮るために監督業に就いた」という言葉には、もう観る側は嫌なんだという子供の頃の決意や叫びとも取れる。

ありきたりな寄宿舎の様子に時折忍び寄る戦争の影。正直途中までは退屈とも言える淡々とした寄宿舎の様子。残虐なシーンや衝撃の展開なんてものは皆無。にもかかわらず見終わった後には感じる途方もない脱力感、一度膨らみ上がった権力の前に人は為す術も無いんだと絶望感は、巨匠監督であり当事者でもある経験と事実に裏打ちされた紛れもない現実からきている。徹底した子供目線の戦時映画。

他にもこの時代を生き抜いた故の冷徹で客観的な視点が素晴らしい。
ナチスから多くのユダヤ人を匿い、逃がした人物の話は現代でも語り継がれ名前が刻まれる。だけどこの映画を見ると、市井の中でも多くの名もなき一般人が彼らを守っていた時期があったんだろうことが伝わる。
子供にとってドイツ兵は恐怖の権化のように見えるんだけど、実際接してみると子供を心配する普通の大人であり、全てのドイツ兵を悪く描いていない。

この邦題は原題に忠実なのがまた嬉しい。見終わった後にじんわり効いてくるこれ以上ない題名。ここまで作品の相応しい題名はあまりないと思う。
和桜

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