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ウィズのkaomatsuのレビュー・感想・評価

ウィズ(1978年製作の映画)
4.0
R&Bやブラック・ミュージックを下敷きにしたミュージカル映画と言えば、『ブルース・ブラザーズ』『天使にラヴ・ソングを』あたりが有名だが、それら以上に、私にとって重要なR&B系ミュージカル映画が、本作。童話「オズの魔法使い」をベースに、モータウンとユニヴァーサルが共同製作した1978年度の作品で、ヒロインのドロシー役にはダイアナ・ロスを、ドロシーが不思議の国・オズに迷い込んでから出逢うカカシ役にはマイケル・ジャクソンを配し、『セルピコ』『狼たちの午後』の名匠シドニー・ルメットがメガホンを取った大作。その割には、公開当時は内容が幼稚だの、遅すぎたブラック・ムービーだの、ダイアナ・ロスが歳を取り過ぎだの酷評され、興行的には失敗し、今ではカルト映画の位置付けになっているらしい。しかし、私にとってのマイケル・ジャクソンは、ジャクソン5からジャクソンズ、そしてソロ・アルバム「オフ・ザ・ウォール」までの時期が全てなので、本作で歌われる、ジャクソンズ時代のファンキー・ソウルなマイケルの黒っぽいグルーヴを聴くと、世間の評価などどこ吹く風、無条件に反応し、背筋が寒くなるほど感激してしまうのだ。もちろん、ダイアナ・ロスの包容力豊かな歌声にも…。

叔父・叔母とハーレムに住むドロシー(ダイアナ・ロス)は24歳になっても、いまだ独り立ちする勇気がない。そんなある大雪の夜、愛犬のトトが屋外に飛び出してしまい、ドロシーが慌てて追いかけると、猛吹雪にさらわれ、オズの国に来ていた。善良な魔女ミス・ワンに、まず家に帰るためには、黄色い舗道を歩いて、ウィズという魔女に会うように言われる。その道中、知恵が欲しいカカシ(マイケル・ジャクソン)、心が欲しいブリキ男(ニプシー・ラッセル)、勇気が欲しいライオン(デッド・ロス)に次々と逢い、四人は仲間となって助け合いながら旅を続ける。そして、ウィズに面会。ウィズは、四人の願いを叶える代わりに、悪の魔女エヴェリンを殺すようドロシーに命じる。果たして、ドロシーと仲間たちの願いは叶えられるのか…。

序盤、ダイアナ・ロス扮するドロシーの登場シーンでは、シュープリームスを脱退した1970年以降、主にアシュフォード&シンプソンの作詞作曲による、ゆったりと包み込むような歌と楽曲が定番になったダイアナならではの、おおらかなバラード・ナンバーが並ぶ。一転して、オズの国でマイケル・ジャクソン扮するカカシが登場してからは、当時マイケルの在籍していたジャクソンズのサウンドに近い、ストレートにファンキーソウルなナンバーが目白押しとなり、そのグルーヴにテンションは高まる。特に、旅のルートである黄色い舗道を歩くときに流れる「Ease On Down the Road」は、最高のモータウン風ファンク・ナンバーだ。この曲はエンドロールほかで何度も流れるのだが、ドロシーの旅の仲間が増える毎に歌い手も増えていき、それがたまらなくグルーヴィーでカッコいい。この映画でのマイケルとクインシー・ジョーンズの出逢いなしには、「オフ・ザ・ウォール」から始まる、マイケルの3枚の世界的大ヒットアルバムは生まれ得なかったかもしれないことを考えると、たとえ興行的には失敗作であっても、本作が製作された意義はあまりにも大きい。ましてや、この時期のマイケルのソウルフルな歌声が一番好きなだけに、やはり個人的にはとても切実な作品だ。
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