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野蛮人のようにのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

野蛮人のように(1985年製作の映画)
4.5
出会うはずのない世界の二人が重なりあって作り出した、美しく散るvieのような花火

超マイクロ名画座、ラピュタ阿佐ヶ谷というところに行ってみました。
ラピュタ阿佐ヶ谷は日本映画の旧作かつ名作をテーマごとに集めて上映。今回は「石上三登志スクラップブック 発売記念ミステリ劇場へようこそ2018」と題し、最近発売された著書内で紹介された作品中からセレクトしての上映だったみたいです。日活の「事件記者」シリーズ、松本清張の映画化作品が多くセレクトされており、本作「野蛮人のように」はラインナップ中では、かなり新しい作品です。
もちろん、私は長らく洋画派だったので、海外映画を扱うミニシアターは足を踏み入れているものの、日本映画はほとんど見ない人でしたので、この映画館の存在は「はじめまして」状態でした。まあ、阿佐ヶ谷そのものは近場なのですが...

あらすじ:20歳になった天才小説家、珠子(薬師丸ひろ子)は最近筆が進まない。その上、友人が開いてくれた誕生日前祝いパーティーもイマイチ。そこで「密かな夜の冒険を求めて」六本木に一人で繰り出す。
そんな六本木。あるヤクザの親玉が射殺される。犯人は親玉の地位を狙った滝口(清水紘治)。だが、大親分には「女の犯行だ」と嘘をつく。
そんな事件も露知らず、珠子は滝口を慕うチンピラの英二(柴田恭兵)と知り合う。が、突然二人に追っ手が迫る..滝口が適当に考えた服装はなんと珠子の着衣にそっくりだったからだ!さて、二人の逃避行は?

自分の要約力がないのか、あらすじ書くと面白く無さそうな映画にみえる...

見所は主演2人の美しすぎる佇まいとやわらかなムード、となるのかなあ。
逃避行の前半は六本木ロケの躍動感。ゲイバーでの乱闘から街をひた走る疾走感まで、夜の六本木の無国籍感ある雰囲気。「防衛庁の角の店で待ってる」なんてセリフ、時代ですねー。2人がゲリラ的にアマンドの交差点を駆け抜けるシーン含め、この六本木ロケはよく撮れたなあと。
後半の、湘南にある珠子のコテージに逃げ込んでからは、クライマックス以外は正直動きに欠けて気だるいのですが、穏やかな波に包まれながら、生きてきた世界の違う二人の心の交流や、お互いが歩んできた人生の轍を垣間見る瞬間がキュンとします。

主演のお二人への印象
薬師丸ひろ子さんの清潔な愛らしさにキュンキュンしましたよー。本作は角川を独立してからの初作であり、肩だしの衣装にシャワーシーン、喫煙と結構ドキッとする撮り方のはずなのに、キュートなのは彼女の魅力なのでしょうね。でもこのキュートさは映画の流れにマッチするテイストとはちょいと違うような.. .いや、映画の流れが溢れるキュートさについて行けてないのか.. .
柴田恭兵さん、こちらはカッコよすぎです。六本木の街で珠子に出会うシーン、今作の恭兵さんのような心にサッと切れ込むような視線で見つめられたら、多分危ない人と思ってもついていってしまいますよ。視線にやられました。また、都会の夜景に佇んでいても、穏やかな海辺に佇んでいても、血だらけでも、すべてが凛とした雰囲気で、「チンピラで無学な野蛮人」というよりは「やさぐれてシニカルに生きる、でもホントは純真な男」風で、うーん、ある意味映画のムードが尚更ロマンチックに傾いてしまったか。(私は大好きですよ!)
本作はあぶない刑事製作より前の映画ですので、恭さまもちょっと青いというか、春の山菜風と言うのか、柔らかな中に仄かな苦味のある若葉のようなしなやかさに溢れている感じですね。そこがかなりのツボでしたね。

共演陣も興味深く、滝口役は清水紘治さん、その部下のヤクザにはあぶない刑事のパパこと山西道弘さん等未来のあぶない刑事メンバーもちらほら。あっ、バス旅でお馴染みの太川さんもチョイ役でいました。

ただ、この作品の評価、悪いみたいですね...『チ・ン・ピ・ラ』の評価が高く、期待されていた分芳しくない評価がチラホラ。
ストーリーは悪くはないと思います。しかし、観ていて気になったのは、ちょっと演出に凝り過ぎているのかなあと思いました。
珠子にとって英二との出逢いは、異次元に放り込まれるようなもの。逆もしかり。その過程を不思議の国のアリスのモチーフの挿入で表現しているのですが、唐突すぎる登場で、一見しての理解は難しすぎるかもしれません。他にも台風のシーン、食事のシーンも凝りすぎて不自然な演出は好みが分かれますね。
自分は大丈夫でしたし、へーっとなりましたが。

川島監督の前作『チ・ン・ピ・ラ』ような、ストレートな男の躍動感から透けてみえる人生観が好きな人は、今回のようなロマンに酔いすぎな演出とムードが鼻につくのかもしれませんね。ネオン、海、花火、美男美女とロマンチックが過剰なくらい揃ってますから...特に序盤は花火だけではなく、たばこの火やスパークといった「火花」系まで登場しましたから。パッと強く輝き、すぐに散ってしまう人生がテーマだったのかなあ。でも、ラストではあまりそれは活きてはいなかったなあ。
それでも、パズルのように様々な要素がキレイにはまっていく流れは凝っていたし、何よりスクリーンのひろ子ちゃん&恭さまが素敵だった、花火ような儚い美しさがすべてです。音楽もジャズやアフリカの民族音楽風で、かなりロマンチックでした。

ちなみに、ロードショー時、二本立ての組み合わせ、つまり本作との併映は「ビーバップハイスクール」だったのですね(驚)テイスト全然違う...で、ビーバップのほうが売れたのかぁ。(で、ここにも未来のあぶ刑事メンバーが...)

美しい二人が紡ぐロマンに付き合える方にはオススメします。私にはかなりツボにはまった演出なので高得点ですが、この雰囲気が生理的に受け付けない方は全然ダメかもしれません。
そして、ミステリ劇場、のテーマなので、ネタバレしてしまうクライマックスの感想はコメント欄に別記しますので気にならない方はどうぞ。
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