神秘的で、ユーモアと悲劇が混在するなんとも言えない独特なユーリノルシュテインらしい傑作アニメーション。
まず、彼の作品は考えるな!感じろ!と言うのが大原則ではありますが、これはまさしくその代表格なのかもしれません。
不明瞭な線で描かれたアイボリーやダークグレーの人間の世界と、暗闇で孤独に生きる狼のシークエンスはまるで断片的な夢のようで意味が繋がらないようにも見えるが、これはノルシュテイン自身が幼少期に体験した戦争体験の記憶の断面図をそのまま表現しているかららしい。
少女が大きな牛と縄跳び遊びをする傍らで物思いに耽る男性は作品作りに悩むノルシュテイン本人なのだろうか。
ロシアという激動の歴史を辿る国で育った彼の想い出が私の記憶の断面と一致するはずはないのだが、それでもダンスパーティーで踊る男女からひとり、またひとりと男が兵役に奪われ消えていく描写はまるで自分の過去の記憶のように私の心に映像を強く刻んでしまうほど印象的。
なによりも、悪夢のような映像と穏やかな映像を難なく繋ぎ合わせてしまうその技量にも感服。
全て理解出来たわけではない少々難解なアニメーションではあったけれど、何とも強烈で忘れ難い作品でもあった。