ユミコ

ノックは無用のユミコのレビュー・感想・評価

ノックは無用(1952年製作の映画)
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マリリンには珍しく……というか少なくとも私が観たマリリン出演作には無かったような役どころでした。作品は狂気じみたサスペンス……でした。

初めに主演のリチャード・ウィドマークと、恋人役アン・バンクロフトとの恋人同士のやり取り。と言っても、アン側からの別れ話。映画「卒業」のミセス ロビンソン役でお馴染みのアン・バンクロフトはここではまだ若く、ジャズシンガーで心身共に成熟した 大人の女性を演じてます。一方、両親の無い孤独な女性役マリリンは唯一の身寄りの叔父を頼って叔父の勤務先であるニューヨークのホテルを訪れる。
マリリン演じるネルという女性はパイロットだった恋人を事故で亡くして以来、情緒不安定、パニック障害のような精神的に大きな病を患い数年の入院生活を送った後、医者からOKの診断が出てニューヨークに来たのだった。そこで叔父にホテル客のベビーシッターのお仕事をすすめられ彼女はそれを引き受けた。しかし彼女は依頼人が留守なのをいいことに、そこの婦人のアクセやドレスを勝手に身に付けてみたり香水を使ってみたり好き放題。
もうこれだけでも犯罪ものだと思うのですが彼女の身勝手な行動はさらにエスカレートし狂気じみていくのでした。

マリリンはホテルでウィドマークと知り合い彼を依頼人の部屋に勝手に招き入れる。眠ったとばかり思っていた依頼人の子供が起きてきたり泣いたりすると自分の時間を邪魔されたとばかりに怒り子供に攻撃的になっていく。挙げ句の果ては叔父の頭を物で殴ったり子供を後ろ手に縛りつけたり知り合ったばかりのリチャードを 亡くした恋人が生き返ったのだと思い込んでみたり最早 彼女は手の施しようのない状態に……。

もっとバンクロフトとウィドマークがメインで描かれていたとしたらこの時代に相応しいオーソドックスな大人のラブストーリーに仕上がっていたことでしょうが、マリリンが登場することによってその雰囲気は良くも悪くも薄められてます。

こんなマリリン、他では観ることは出来ないだろうなあ……これまで観てきたマリリンは彼女ならではのセクシーなドレスを身にまとい華やかで艶やかそしてチャーミングな役柄が多かったし天真爛漫な性格の役どころが殆どだったような気がしますが、この作品ではかなり心が病み平静を保つ事が困難なほどの人間を演じており、ファッションもこの上ない地味さ(このジャケ写のようなファッションは一切ありません。)。
実際のマリリンのプライベートは波乱に満ちたものだったということなのでどうしてもオーバーラップしてしまうのです。真のマリリンに一番近い姿がこの作品のネル役の彼女だったのでは……と感じずにはいられませんでした。
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