akrutm

ありふれた事件のakrutmのレビュー・感想・評価

ありふれた事件(1992年製作の映画)
3.4
ある殺人鬼を取材するクルーのカメラを通じて、殺人鬼の男性の行動をドキュメンタリー風に描いた、レミー・べルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールドの3名の共同監督による犯罪映画。3人は本映画の4年前に共同で短編映画を撮影しているが、本作が初の長編映画である。また、この3人は映画にもそのまま出演していて、ブノワ・ポールヴールドが殺人鬼、レミー・べルヴォーがドキュメンタリー監督、アンドレ・ボンゼルがカメラマンを演じている。よって、本作後に俳優として活躍するようになる(当時の本人は全くその気はなかったそうであるが)ブノワ・ポールヴールドのデビュー映画とも言える。

ある若い男性が淡々と殺人を行う様子を描くとともに、彼を密着取材しているクルーたちも次第に殺人に関与していくという内容は、正直言って救いようがない。もちろん映画としてあり得るだろうが、個人的には、見ていて胸くそ悪くなる内容である。一方で、モキュメンタリー的な表現や主観ショットによる撮影は、この当時ではかなり斬新だったのではないだろうか。これらの表現手法が、全く悪気を見せない冷淡な殺人鬼を映し出す白黒映像とともに、とても印象的な映像世界を造り出している。『追想』のフィリップ・ノワレに言及する(でもその殺人は十分な理由があるのだが)など、映画へのオマージュも見られる。今ではすっかり冴えない太っちょオジさんになってしまったブノワ・ポールヴールドの精悍な顔つきも見れるのもポイント。

ちなみに、ブノワ・ポールヴールド演じる殺人鬼の母や祖父母として出演しているのは、ブノワ・ポールヴールド本人の実の母や祖父母だそうである。しかも映画(フィクション)の撮影であることを告げずに、ブノワ本人の取材として撮影していたそうであり、拘置所での面会のシーンで檻越しに本人を見たときには、母親は本気でショックを受けたそうである。そこまで徹底的にやるだけの若さがあったということなのだろう。
akrutm

akrutm