クロ

バリエラのクロのレビュー・感想・評価

バリエラ(1966年製作の映画)
4.1
舞台は第二次大戦後のポーランド。主人公は医学生の青年。青年の父は戦前、青年は戦後の世代であり、愛国者として国を守った父たちのもたらした安定の中で若者たちは暮らしている。しかしそれはあくまで小康状態であり、彼らは先代の築いた繁栄を懐疑し時流に乗り遅れたかのように行き場を無くしている。逃れられない抑圧の元で青年とその仲間は一触即発、奇矯な行動を取る。青年は仲間から託されたお金を手に学業を捨て旅に出る。

ストーリーについては監督自身が「わからない」と言っているからそれは置いて作品に臨めば良いのだろう。登場人物には名前すら与えられない。物語は道中の白昼夢を描いているようではあるが現実との境界も示されない。私達はのっけからそんな曖昧な場所にぽつんと置きざりにされる。しかし監督が仕込んだ様々な仕掛けに身を任せれば、この作品を十分に楽しめると思う。

本作では路面電車が効果的に使われており、その佇まいやしっとりと走る姿の美しさを生き生きと捉えている。運転手の娘が電車の下に潜り込むシーンの詩的な描写も素敵だ。スキーのジャンプ台からアタッシュケースにまたがって直滑降といった、あんさん死ぬで?とハラハラする場面もちらほら。これが体育会系スコリモフスキ監督の気合なのか。白眉は雪の夜、路面電車の運転手の娘と青年の煙草を介した出会いのシーンの刹那的な美しさだ。いかつい監督からは想像もつかない繊細で艷やかなイメージを見せつけられた。月並みだが青二才の八方塞がりの危機を救ったのは恋であり、この映画は奇矯な体裁のロマンスなのかもしれない。

クシシュトフ・コメダのジャズをベースとした終末感漂う音楽が映画の情感をより瑞々しく粋なものにしていた。

沢山の瞬間の煌めきに満ちた素敵な映画だった。

追記:感想文書くの難しい作品だなぁ。。今はこれが精一杯です。
クロ

クロ