Jeffrey

バリエラのJeffreyのレビュー・感想・評価

バリエラ(1966年製作の映画)
3.5
‪「バリエラ」‬

‪冒頭、4人の医学生が大学寮の1室でマネキンの拳の上に置かれたマッチ箱を手を使わずに口で加えるゲームをしている。勝者の青年、学業放棄、旅行鞄、夜の街、若い娘との出会い、路面電車、レストラン。今、歴史的政治的背景を交え恋愛物語が始まる…

本作はイエジー・スコリモフスキが長編第3作に描いた映画は彼の中でもラブロマンスが集中的に描かれており、所謂"アンジェイもの"3部作の2作目「不戦勝」後に制作された物語だが、実際のところ本作は監督によると続編にしようとしていた単品の作品だったが、当局が監督演じる主人公があまりにもネガティブな人物像であった為に他の役者を立てない限り映画制作ができなかったとの事…

だがこの映画の主人公には名前が与えられていない分、きっと監督はこの作品を含めて4部作にしたいと言う気持ちがあったんじゃないかと推測する。

因みにタイトルのバリエラは障壁と言う意味らしい…

本作は冒頭から引き込まれる。
コメダのジャズが流れ、両手を後ろ手に縛られる描写から静止画に変わる。後ろ手に手を縛られた男性たちが次々に倒れ込む。

彼らは画面に向かって一言二言、言葉を交わす。

軈て1人の青年がマッチ箱を口で加えることに成功する。彼は4人で貯めた豚の貯金箱を受け取る。そして全財産を詰めた旅行鞄1つを持ってその寮を出て行き老人ホームへと向かう。

そこには彼の父親がいる。続いて彼は父に結婚すると一言。レンガの壁を登る青年、吊るされたアヒル(もしくはガチョウ)に手を伸ばす。

次の瞬間カメラはロングショットになり、大人数がその建物を眺めている場面に移り変わり、大移動をし始める。画面は不意に白くぼかしが入り、青年が彼らに混じり、走るシーンへと誘い始める。

続いて父の旧友の中年女性の家に1通の手紙を配達する。真夜中に焚火を野外でする娘と煙草を吸うクローズアップ、その脇を車が数台走る。カメラはゆっくりと後退していく。続いて"ハレルヤ"と言う歌と共に建物の明かりが一斉に付き、画面は光り輝く。

次に列車の画、ジャス、会話、公衆電話、食事、売り子、退役軍人とその妻たち、盲目の人…と様々な登場人物が現れ青年と娘の出会いを描いていく…物語は戦後ポーランド社会における世代間のバリエラ(障壁)を詩的かつ超現実的な映像で表現した作風。

青年が鏡で顔を拭いている時に後ろから複数の老人が列をなして歩く描写はなんとも不思議なシーンである。

この時代はどこの国も前衛的で実験的な作風を好んでいた。特にポーランド映画はものすごく難解である。

本作でも父親から授かったサーベルや鍵がよく画面に映し出される。

その意味を解くのには苦労する…基本的にメタファーだらけの映画だからである。ところで本作のワンシーンで絵の具で十字架を顔に描かれた男性の描写の後に"死んでいる"と言う意味の7つの文字板を地面に置く場面があるのだが、それを上空撮影した雰囲気が寺山修司の「書を捨てよ町に出よう」のワンシーンの石灰でグラウンドに文字を描いた少年の場面とよく似ている。

それだけではなく同じポーランド映画作家のクッツの「沈黙の声」を彷仏とさせる場面もある。

最後に余談だがこの映画は北イタリアのロンバルディア州ベルガモで開催されるベルガモ映画祭に出品されグランプリを獲得したらしいのだが、当時同じく出品していた監督ヴィスコンティの「熊座の淡き星影」を抑えたのは凄い…

まだ若いながらに。

それとまだ個人的にも未鑑賞であるが、スロバキア映画の「網の中の太陽」と言う作品を意識した演出が本作にはあるらしく非常に観たい。‬
Jeffrey

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