emily

2/デュオのemilyのレビュー・感想・評価

2/デュオ(1997年製作の映画)
4.1
 ショップ店員ユウはしがない俳優業のケイを経済的に支え同棲している。俳優業は上手くいっておらず、突然ケイがプロポーズする。その真意を聞くユウだが、彼ははぐらかしてばかりで答えてくれない。ケイは言葉ではなく暴力的になっていき、ユウは精神的に病んでいく。

 台本はなく、即興芝居で作り上げられた実験的な本作。初めは二人の間に違和感を感じる。ベッドから始まる会話。その会話をそこで作り上げて行ってるのがわかる。その分突如ユウの敬語が入ったり、沈黙があったり独特な間をスライドするカメラがとらえていく。話してる人物の背後からカメラは捉え、表情は一切映らない。だからこそ心情は見えてこない。人物像も即興芝居の積み重ねで作られており、何故プロポーズするのか?その真意も観客に分からないように演者側も分からないのではないかと思わせる。そう言った即興で作り上げた物だからこそ、演じながらも演者たちの経験や価値観がしっかり反映され、途中挿入されるインタビューにより”演じる”事が何重もの層になり複雑化を見せる。

 ケイのプロポーズ、暴力的な態度、そこからユウの情緒不安定ぶり。立場が逆転すると一気に男は優しくなっていく人間の心理を、このあたりまで物語が進むと二人の位置関係や心情もしっかり重圧になり、出来上がってくるのがわかる。その分二人の”演技”もより濃厚に、表情にも余裕が出てくるのがわかる。ざらついた色彩、背後から、横顔から捉え、見えない部分に役者自身の本質を見せられる気がする。演じながらもそれを構築するのが彼らの経験や価値観であり、それぞれが自分をさらけだし演じてるように思える。

 そんなつもりではなかったが、お互いの存在が、いつもそこに居るという当たり前の存在が安心とさらなる欲望を生み、気づかぬ内に相手を傷つけてしまう。そして失ってはじめてその存在の大きさに気が付くのだ。普遍的なメッセージでありながらそこまでの過程はひりひりと痛みを画面全体から漂わせ、人間の不安定さを見事に繊細に捉える事に成功している。
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