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アメリカン・サイコのtakのレビュー・感想・評価

アメリカン・サイコ(2000年製作の映画)
3.5
クリスチャン・ベイル扮するヤングエグゼクティブが、殺人の衝動から逃れられなくなる狂気を描く意欲作。生活的には満たされているのだが、次第にセックスと暴力にしか興味を抱けなくなっていく。「ビデオ返さなきゃ」って台詞が何度も出てくるけど、そんなんばっかり見てるのかと思うと日本の猟奇殺人事件を思い出したりもする。主人公が満たされないのは、外面ばかりが完璧になっていく一方で本当の自分がないからなのだ。スキンケアやワークアウトで肉体を美しくしたり、流行のスーツを着たりと全ては外見を飾るため。音楽に詳しいようでも、実は売れ筋のポピュラーミュージックしか語れない。結局自分のスタイルがあるようで実はそれがない。「ホイットニー・ヒューストンなんか聴いてるんだ!」と笑われてたりする。

 なんだコイツ…と思う一方で、ちょっと考えてみる。僕は「Men's Non-no」創刊号世代。あの頃、資生堂がヤング向け男性化粧品を大々的に売り出した時期でもあるし、いわゆるDCブランドに心躍ったこともある。それに80年代青春組の男のコなら、ビルボードトップ100に知っている曲が何曲あるか競っていたような経験はあるのではないだろうか。そんな経験を積んで自分のスタイルを持てたヤツはいいんだろうけど、無節操に流行りに乗ろうとしていた輩は、年齢を重ねた今頃になって”他人と違う自分の好み”を自問自答したりしているに違いない。この映画の主人公君も流行にこそ敏感だけど、なんかモヤモヤしているクチなのかも。殺人に至る彼を理解する気はないけれど、彼の満たされなさや、音楽の趣味を笑われたりするのは、同時代を経験した(元)男のコならなんとなく理解できるという方もあるのでは。

全ては彼がオフィスのノートに落書きした妄想だった・・・・という結末だけど、ああいう狂気・衝動はもしかしたら現代人誰もが胸に秘めている”禁断の炎”なのかもしれない。そしてその炎に触れるとき・・・・。 

 本作では、時代背景を示すためか、80年代の楽曲が数多く流れる。特にヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの Hip To Be Square の素晴らしさを語りながら、仕事上のライバルの頭に斧を振り下ろす殺人シーンはすごい迫力。ジェネシスに関するうんちくを女のコに語るとこなんか、ジェネシスファンの僕は笑いが止まらなかった。このような音楽に対する思いが語られるところは面白い。他にもロバート・パーマーやクリス・デ・バー等々サントラ未収録曲も多数。サントラに収録されている You Spin Me Around のカヴァーが本編で聴けなかったのは残念だけど。

ちなみに原作には主人公パトリック・ベイトマンが友人とU2のコンサートに行って、ボノに自分と同じ"悪魔性"を感じるという場面もあるんだとか。血みどろのこの映画、誰にでもお勧めできるものではないけれど、音楽好きでスプラッター描写に耐えられるなら主人公ベイトマンが語る音楽のうんちくは楽しめるはず。
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