2000年の阪本順治作品で、主演は藤山直美である。助演は豪華で、佐藤浩一、トヨエツ、大楠道代、牧瀬里穂、岸辺一徳、そして國村隼などが良い演技をしている。
藤山は同年のNHK朝ドラ「オードリー」で椿屋住み込みの君ちゃんを演じていて、國村は大京映画社長だったのだが、本作の國村が若々しいのに驚いた(私は意外だったのだが、「ブラックレイン」でヤクザを演じた國村は、実は松田優作より年下なのだ)。國村隼は阪本作品の常連でもあり、藤山は國村との共演が多い(6年後の朝ドラ「芋たこなんきん」では夫婦である)。
本作は15年逃走して時効寸前に逮捕された福田和子をモデルにしていると言われる(劇中、一徳が経営するラブホで藤山が働いているところに警官が福田の手配書を置いていくシーンがある)。福田は松山で同僚ホステスを絞殺し、石川では和菓子屋の後妻(内縁)におさまったりもしつつ、近畿、中国、北陸など全国を転々としたのだが、本作の藤山は、神戸尼崎で妹を殺した後は阪神大震災で棲家を失い、大阪梅田、弁天町から別府まで逃げ、さらにフェリーで姫島に渡る。この彷徨は「0.5ミリ」を思わせた(もちろん安藤サクラの映画の方が後)。
冒頭、死んだ目でミシンを踏みながらぼんやりと夢想するだけの引きこもりだった藤山が、さまざまな人と関係する中でたくましく解放されていく様子を映画は淡々と映し出す。自転車に乗れるようになる、泳ぎができるようになる、というのが藤山が望んだことで、この二つのシーンが非常にいい。
阪本順治が次に藤山を主役に据えるのは16年後の「団地」である。これも未見なので見てみたい